12 自分の実戦デビューっすよ

 壁の建築を進めること数日。


 ターニャ隊、ソーニャ隊もだいぶ戦い慣れてきたので、ここで満を持して指揮官のベッキーに登場してもらうことにした。

 彼女は配下の八名がどんどん実戦経験を積んでいくのを見て、ずっと「ズルいっす、自分も戦いたいっす」って主張してたからね。ずいぶん待たせちゃって申し訳なかったけど。


「さて。ベッキーにはこれから、みんなを指揮して安全に戦えるようになってほしいんだけど」

「あの……指揮だけっすか。できれば自分も戦いたいっすが」

「もちろん戦ってもいいよ。ベッキー、ターニャ隊、ソーニャ隊……この三つの戦力をどう配置して、どんな風に統制を取って戦うか。みんなで意見を出しあって試行錯誤しながら、君たちなりのスタイルを掴んでいってほしいんだ」


 僕がそう言うと、ベッキーは不安そうな表情から一転、満面の笑みを浮かべる。


「よし。戦乙女隊ヴァルキリーズ、本格始動っす!」


 そうして、ベッキーたちはあれこれと話しながら周囲の警戒を始めた。そう……彼女たちは戦乙女隊と書いてヴァルキリーズと読むことになったのである。


 というのもね、僕がベッキーの配下を「ターニャ隊」「ソーニャ隊」って呼んでいたら、ベッキーがめっちゃ落ち込んじゃったんだよ。どうも覇流鬼離乙女隊ヴァルキリーズってネーミングにかなり愛着があったみたいでさぁ……僕はちょっと呼びにくいなぁと思ってたんだけど、ベッキーはめちゃくちゃ気に入っていたみたいで。

 それで、みんなで喧々諤々の議論をした結果、最終的にはベッキーを筆頭にターニャ隊、ソーニャ隊を合わせた計九名の部隊をまとめて「戦乙女隊ヴァルキリーズ」と呼ぶことになったのである。これにはベッキーもニコニコだった。良かったね。


「さあ、まずは自分の実戦デビューっすよ!」


 ベッキーが張り切っていると、ちょうどいいところに犬鬼コボルトが現れる。彼女は両手の手甲をガンと打ち鳴らすと、最近覚えた脚力強化スキルを使って駆け出した。

 両腕に纏っている魔力には彼女の「減速魔法」が込められており、接触時間に比例して敵の動きが遅くなっていくらしい。といっても、犬鬼くらいだと一撃で始末できるから、効果を実感する暇はないだろうけど。


「うんうん。ベッキーは普通に強いなぁ。戦い方が魔法と上手く噛み合ってる……戦闘が長引くほど有利になっていくっていうのは、いい魔法だよね」


 残念ながらベッキーの魔法は合成魔術にすると減速効果が極端に落ちてしまうため、近接戦闘に振り切って鍛えてきたんだとか。いい判断だと思う。特に素早さを武器に戦う魔物なんかにとって、彼女は天敵と言っていいだろうね。


 新生戦乙女隊ヴァルキリーズは隊長のベッキーが十二歳。小隊長のターニャ、ソーニャが十五歳で、隊員は十三歳が三名、十歳が三名。年齢的にはかなり若い部隊だけど、戦い方の基本は見えてきたし、各自の魔法もまだまだ鍛える余地がある。これから強くなっていくんじゃないかなぁ。


 ターニャ隊の方は、草罠のエリサが小鬼ゴブリンをツル草で拘束すると、短剣のターニャと鎧のガイラがサッと距離を取った。そこに、プリーヌの爆裂魔矢が綺麗に決まる。いやぁ……先日まではよくガイラが小鬼の肉片まみれになってたんだけどね。エリサが一生懸命頑張ってくれて、なんとかそれも減ってきたんだよ。

 ソーニャ隊の方は、ヌゥムが骨鬼スケルトンを泥沼で転倒させ、ナシャが敵頭上に巨石を生成して押しつぶす。二人ともなんか楽しそうで良かったなぁ。短槍のソーニャと円盾のマドカの連携もスムーズだし、想像していたよりずっと安定感があるように思う。


――さてと、僕は建築の続きをやっていこうか。


 この森をぐるりと囲む壁は、東の村落を起点に建築を始め、現在は北の領都ピスカチオ市に到達したところである。ここからさらに西にぐるりと壁を伸ばしていって、女性刑務所の方まで壁を繋げていこうと思う。

 もちろん地面は平坦ではないから、掘ったり埋めたりいろいろと手間はかかるけど。ただ、この島で初めて見る魔樹・魔草なんかも色々とあったから、整地をしているだけでも収穫が多かったかな。亜空間庭園ガーデンも色々と充実したしね。


 時間を忘れ、無心になって作業を進めていく。


 現在、亜空間にはたくさんの人が暮らしている。

 まずは保護した実験被害者たち。彼ら彼女らは現在小人たちが世話をしてくれているけど、回復にはしばらく時間がかかるだろう。

 次に、捕らえた実験関係者。彼らは皆、罪人のように魔力制限の首輪をつけて、独房に入ってもらっている。世話用の騎士人形ゴーレムにあの手この手で攻撃を仕掛けてくるくらいには元気いっぱいだ。心が折れる気配は今のところないかな。本格的な尋問は、もう少し彼らが落ち着いてからにしようと思う。


 あ、そうそう。女性の特務神官が持っていた神殿の「秘宝」とやらをいくつか押収したから、それについても詳細が解析できたんだよね。

 便利そうなのは、真偽の天秤、隠形のペンダント、浄水筒あたりかな。魔道具の構造が洗練されていて、なかなか勉強になったよ。とはいえ、機能の核になっているのはどれも魔宝珠だから、まるきり同じものを量産するのは現状では難しい。僕がみんなの装備品を製作する際には参考にさせてもらおう。


 なんてことを考えながら。僕はベッキーたちの戦闘の様子を確認しつつ、長い長い壁をひたすら建築していった。西の女性刑務所に到達するには、もう少し時間がかかりそうだ。

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