第三章 スーパー建築タイム

11 いくつか狙いはあるんだけど

 インスラ辺境島領は、大まかに言えばひし形のような地形をしていて、各頂点に集落――北に領都ピスカチオ市、南に男性刑務所、西に女性刑務所、東に新集落が存在しているのが現状である。

 島の中心には赤茶けた山があり、その周囲には森が広がっている。細かく言えばもっと色々なものが存在するんだけど、ざっくり全体を把握するならそんなところだろうか。


 さて、僕はこの島に、森と集落を隔てる壁を作る許可をもらった。つまり、ものすごく大規模な建築作業をすることになるわけだね。くくく。魔物の多い辺境で、建築作業をしなきゃいけないわけだ。いやぁ、大変だなぁ。


 と、その前に。


「――みんな、出てきてくれるかな」


 僕が亜空間から呼び出したのは、覇流鬼離乙女隊ヴァルキリーズの女の子八名。ここから先は、全員での実戦訓練を行う。つまり、十歳の年少三人組もついに戦闘に加わるってことだね。表情を見たところ、みんなやる気は十分といったところだ。


「さて、これから君たちには二つの部隊に分かれて戦ってもらおうと思う。リーダーになるのは、もちろんターニャ、ソーニャの二人だ」

「「はいっ」」


 うん、いい返事だ。

 これについては異論は出ないだろう。これまでも年長者の二人がみんなをまとめてくれていたので、特にそこを変更する必要はない。責任感も慎重さも持ち合わせている二人になら、部隊を任せて大丈夫そうだ。


「まずはターニャ隊から。隊長は短剣のターニャ。隊員は鎧のガイラ、爆裂のプリーヌ、草罠のエリサ」


 つまり、ターニャ隊の戦い方はこうなる。

 軟体化魔法を使えるガイラが敵の足止めをする。するとターニャが弱点看破魔法で的確に敵を攻撃し、エリサは草罠魔法で敵にツル草を巻き付かせて動けなくさせる。そこを、プリーヌの爆裂魔術でズドンととどめを刺す形だ。


 エリサの草罠魔法は魔力で仮想的なツル草を生成するもので、なかなか便利そうだった。

 以前は思うようにツル草を動かせなくて悩んでいたみたいだけど、魔手の練習をするうちに草罠魔法の方もぐんと器用になったから、これから様々な戦い方を編み出していくだろう。


「が、ががが頑張りますっ」


 彼女は一見すると臆病なんだけど、話してみると実はけっこう頭が回るんだよね。今後の成長によってはなかなか厄介な使い手になると思うよ。楽しみだね。

 そんなターニャ隊はなかなか強い連携を期待できるんじゃないかと思う。もちろん敵との相性もあるだろうけど、そう簡単には負けないと思うよ。


「次にソーニャ隊。隊長は短槍のソーニャ。隊員は円盾のマドカ、投石のナシャ、泥沼のヌゥム」


 ソーニャ隊の戦い方は次の通りだ。

 挑発魔法を扱うマドカが敵を引き付けながら盾で攻撃を捌いて、背後にいるソーニャは動作看破魔法で敵の動きを見破って短槍で攻撃する。そしてヌゥムが泥操作魔法で敵を妨害したところに、ナシャの石生成魔法で敵頭上から大きな石を落とすわけだ。


 ヌゥムは、悪巧みがめちゃくちゃ好きな楽しい女の子なので、泥操作魔法を使って敵を罠にはめる作戦を一緒にあれこれ考えた。足を滑らせたり、地面の一部を深い沼にしたり、うまく使えばなかなか凶悪だと思うよ。

 一方のナシャはずっと自分の戦闘力に自信がなかったみたいなんだけど、魔力で石を生成できるのはなかなか強いと思うんだよね。これまでは手元でしか石を作れなかったけど、最近は魔手を練習して離れた場所に巨石を作れるようになってきている。自信もついてきたみたいで、表情がずいぶん明るくなった。良かったなと思うよ。


「くくく……私の泥で罠にはめて」

「私の石でトドメを刺す!」


 ソーニャ隊の相性もなかなか良いと思うので、訓練をしながら様々な連携を試していってほしい。


 やる気いっぱいの八人を眺めながら、僕は一人ずつに魔道具を手渡していく。


「さて、みんなにはそれぞれ腰に空間拡張ポーチを下げ、非常時に備えて錬金薬を持ち歩いてもらう。薬の在庫なんかは気にしなくていいから、戦闘中にそれらをスムーズに使えるかという観点でも色々と試して工夫してみてほしいんだよね」


 そうして、ターニャ隊、ソーニャ隊にはそれぞれ森で魔物の警戒を始めてもらった。もちろん、異常個体のような妙に強い魔物なんかが出てきた場合は僕が割って入るけど、基本的にはみんなに任せてしまって大丈夫だろうと思っている。


――さて、僕も作業を始めようかな。


 今いる場所は東の村落から少し森に入ったあたりだ。だから何を建てるにしろ、まずは地面に生えている草木が邪魔になるんだよね。

 というわけで、最初に取り出すのはこちら。


「てってれー、クラフトアックス」


 そう、クラフトゲームを再現した斧である。

 僕はここに壁を作成するつもりなので、まずは邪魔な木をどんどん伐採して木材に変えていくのだ。伐採した木材自体もどこかで利用できるだろうし、有用そうな植物は亜空間で育てようと思う。


「へいへいほー、へいへいほー」


 コーンと斧を打ち付ければ、木はすぐに亜空間に収納される。もちろん周囲の警戒は忘れていないけど、無心になって作業をするのは心が洗われるよ。いいよね、これぞクラフト生活って感じ。


 壁を作る、とは言っても一枚ペラの壁ではなく、結構な幅のある城塞みたいなモノを作りたいんだよね。構造は単純だけど、今回はとにかく規模が大きい。

 建築資材としては、僕の亜空間にある素材で十分に足りるとは思うけど……うーん、あんなに膨大だった素材がかなり目減りしてきたからね。建築が終わったら、どこかでガツンと補充したいところだなぁ。鉄鉱石、石灰石、あと普通の岩石あたりもいっぱい掘らないと……くくく。これは採掘場所について領主に相談しないとね。


 僕は未だかつてない大規模建築に胸を踊らせながら、地面を掘り、地盤をしっかりと改良した上で壁となる建物を作っていく。これぞクラフトゲームだ。はぁ、めっちゃ楽しい。


 ちなみに僕が建築生活を楽しんでいる間、領主の次女であるポルシェにはとある錬金装置の開発をお願いしていた。上手くいけば、今後のインスラ辺境島領にとって非常に重要な装置になるだろう。

 基本的な構想は共有できているので、あとは彼女の腕前次第だけど、あの感じならたぶん大丈夫。出来上がりが楽しみだ。


  ◆   ◆   ◆


 半睡眠スキルを使いながら夜通し作業を進めた結果、朝になる頃には大きな壁がそびえ立っていた。


 東の村落と森を遮るように作られた、高さ十メートルほどの壁。その壁面には等間隔に防壁術式の組み込まれた石ブロックが並んでおり、魔物を全く寄せ付けない堅牢なものになっている。

 ちなみに地下には、苔まみれの球体のようなものがズラリと並んで隠されているんだけど……これは、先日採取した「明魔苔」を繁殖させたものなんだよね。森の瘴気が流れ込むと、明魔苔はそれを吸って光と熱を発する。なので、それを浄化ランタンの要領で魔力源として利用し、防壁術式を常時起動させているわけである。


 瘴気の豊富な辺境において、魔苔式のエネルギー確保はかなり良い手段だと思うんだよ。生成する魔力量はそれほど多くないけど、メンテナンス不要で長時間運用できるから、今後も活用の幅はかなり広いように思う。


「うーん……思ったより建築に時間がかかったなぁ。まぁ、最初だからね。地道に改善するしかないか」


 作っている壁には様々な術式回路を仕込んでるんだよね。魔力を流すことで門扉の開閉をしたり、魔手の延伸を補助してくれたりと、色々と便利になものになっている。


 現段階で完成した壁は、全体から見るとほんの一部に過ぎない。まぁ、これから工夫して少しずつ作業効率を上げていけば、予定の工期にはおそらく間に合うかな。変なトラブルがあると遅れるかもしれないけど。

 僕がやる仕事は単純明快。このまま壁をどんどん延長していき、最終的にこの島の森をぐるりと取り囲む長城のような防衛壁を作るのだ。いくつか狙いはあるんだけど、何をするにしても、この壁の建築が今回の肝だと言えるだろう。しっかりしたものを作らないとね。

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