Life.2 爆誕! オカルト剣究部!(2)《わ、私。部活に集中したいので…》
放課後、私は期待と不安で一杯になりながら、指定の場所へ向かっていた。
(告白されるなんて初めてだ……まさかドッキリなんてことはないと思うけど……)
もし手の込んだイタズラだったら私たぶん泣いちゃうよ。
「──待っていました」
体育館裏に行くと、既にリュネールさんが立っていた。
しかし彼女を見た途端、先ほどまでの心配が一気に吹き飛ぶ。
「イタズラ、の方がよかったかもしれない……」
ついそう呟いてしまったのは、彼女の腰に携えられた得物を見たからだ。
「剣を持っている、ってことは……」
嫌な予感が的中するように、目前の騎士はレイピアを勢いよく抜いた。
「わたしは英雄ダルタニャンが末裔リルベット!」
真っ直ぐに剣を構え、青い瞳を大きく開く。
「わたしの剣に見覚えがあるはず! ようやく貴公と正々堂々の勝負ができる!」
ハキハキと語り始める彼女へ、私は戸惑いながらもやっと言葉を返す。
「み、見覚えなんか、ないですけど……?」
瞬間、まるで空気が凍ったようになった。
リュネールさんは固まってしまうが、すぐさま余裕の表情に切り替える。
「っふ、面白い冗談だ。顔はともかくとしてわたしの剣を忘れたとでも?」
「はじめまして、だと思いますよ」
再び少女の饒舌が止まる。口元をひきつらせて確かめるように問う。
「本気で、言っているのか?」
「どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」
本当に覚えなどない、それが相手にも伝わる。
それが決定打だったのか、リュネールさんの剣先がすっと地面に落ちた。
「──わたしのことなど、覚えるにも値しないというわけか」
彼女は視線を伏せて、何事か小さく呟いている。
「……いいやそんなことはありえない……このわたしが凡百扱いなど……」
ちゃんと聞き取れないが、リュネールさんは決意した表情で面を上げた。
「であれば、この決闘をもって、思い出させればいいだけのこと!」
どういう思考プロセスを経たのか、最終的には決闘と言い出す始末である。
「わたしは今度こそ貴公に勝利し、更なる高みへと至る!」
なんて様になる台詞だろう、まるで映画のワンシーンだ。
しかし想定と異なる事態に、私は状況整理をするために恐る恐る尋ねる。
「あの、告白、じゃないんですか……?」
「告白? なんだそれは?」
せめてダメ元でと訊いてみたが、告白という言葉に首を傾げてしまう。
「もしかしてわたしに告白したいのか?」
「え、私が!?」
「我ながらこの圧倒的な美貌だ、貴公が欲情してしまうのはわかる」
「よ、欲情なんてしてませんけど!?」
「っふ、貴公の視線は、先ほどから私の胸ばかりに注がれているぞ?」
……それは否定、できない、ですけど!
「決闘で当方が敗北すれば、貴公のものになってもいい」
自信が戻ったらしく、言葉に強さを滲ませるリュネールさん。
その昂ぶった態度を示すように、結んだ髪の毛先がブンブン揺れている。
なんだか犬の尻尾みたいで……って、そうじゃなくて!
「ば、薔薇をくれたじゃないですか」
「あれは決闘の申し込みだ」
決闘の申し込み!? ぜんぜんそういう雰囲気じゃなかったよ!
「そういうのって普通、手袋を投げつけるとか……」
「あれはベタすぎる。よってわたしなりにアレンジを加えてみた」
じゃあ分かるか! 受け取った私にも問題あるけどさ!
「それに手袋は綺麗に保つべきだ。わたしの流儀に不潔不浄という概念はない」
決闘とか言っているのに、なんでそういう感覚だけ現代的!?
「何か文句でも?」
「文句しかないですけど」
「やれやれ、貴公ともなると薔薇の一本では満足できないと。であれば一時間ほど待っ
ていてもらうことになる。急ぎ追加で百本ほど仕入れてこようではありませんか」
「数の問題じゃないっていうか……仕入れてくる……?」
「駅前の花屋まで行ってくる」
これまた現代的。近くに自生しているわけではないので当然だけど。
「ば、薔薇はもういらないです」
「そうですか……」
リュネールさんの尻尾──じゃなくて、髪の毛がしょんぼりと垂れる。
せっかくのやる気を削いでしまっただろうか。
「であれば、さっそく決闘といきましょう」
そしてリュネールさんは自分の眼帯を外そうとする。
『──あの左目、
すると眠っていた天聖が、思わずといった感じで助言をくれる。
『──油断するなよ、ドラゴンの匂いが強い』
ドラゴン系の
当に戦う流れに……。
「我が邪龍眼を見て生きた者はなし! 覚悟はいいですね!」
「覚悟しないよ! だから待ってくださいって!」
私は慌てて制止をかける。
「くどい。まだなにか言いたいことでも?」
「わ、私、もう決闘はしないというか……」
「決闘をしない? 剣士である貴公が?」
よほど衝撃的だったのか、リュネールさんが理解できないと唖然とする。
先日ゼノヴィア先輩と試合をしてしまった。
しかしあれは特別というかなんというか、とかくそう何度も戦っていられないのだ。
(せっかく告白だと思って、色々と考えてたのに……って告白?)
この難局をどう逃れようと焦る間際、定番の断り方があったことを思い出す。
「わ──私、今は部活に集中したいんです!」
これが戦いを避けられるベストな言い訳だと、声を上ずらせながらもハッキリ告げる。
「だ、だから、あなたにお付き合いしてる暇はないんです!」
決まった! これだ! すっごく普通っぽい!
「部活に、集中……?」
「そ、そうです!」
「なぜ……?」
「な、なぜと言われると……そう! 人が足りなくて部員集めとか!」
「…………」
「もう決闘どころじゃない! あぁ困った! そうだ早く部活に行かないとなぁ!」
なんだかアヴィ部長みたいな喋り方だが、ここは勢いで乗り切ってしまおう。
「……では、決闘を受けるのは、部活とやらが落ち着いてからしか無理だと」
「お、仰る通りです!」
「ふむ……」
「今のまま戦っても、実力の一パーセントも出せないだろうなぁ! 残念だなぁ!」
「むむむ……」
このテンションで喋るのはすごくしんどい。
だけど相手を注視すれば、眼帯を外す手を止め、剣からは迷いが見て取れる。
どうだ参ったか。もう決闘なんかしないぞ。
「──では、わたしも入部しましょう」
しかし彼女はこの程度で折れる人物ではなかったと思い知る。
「にゅ、入部?」
「貴公らを手伝い、部活動とやらが安定するまで在籍します」
「えぇ……」
「そうして目標が叶った暁には、正々堂々と決闘をしていただく」
何を言っているんだろうこの人は……。
「それが騎士道というものです。対等かつ真剣である勝負しか望みません」
冗談でなくどうやら本気らしい。
ただでさえ少なくも濃い面子なのに、この人が入ったらどんな化学反応が起こるか。
「りゅ、リュネールさんには、あの部は難しいんじゃないのかなー……」
「まず何をする部なのですか? 名前は何と言う?」
「お、オカルト剣究部……です」
「
意とするところです」
か、完全に乗り気になってる。
「ではさっそく参りましょう。案内しなさい絶花」
「いきなり呼び捨て!? じゃなくて──」
「わたしのこともリルベットでいい」
「えっと、じゃあ、リルベットさん……?」
「それでいい。仮初めとはいえ一時の仲間になるのだから遠慮は不要だ」
「あ、う、うん……」
おい、照れてどうする私!
「では参ろうか!」
「お、おー……?」
ということで、決闘を条件に、部員が増えることになりました。
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