第25話

 裸の付き合いに効果があったのか。 

 風呂から上がる頃には、リリィと美聡は少し仲良くなっているように見えた。


 風呂上りには母も交えて、楽しそうに女子トークをしていた。

 馴染めて良かったと思う。


 ……代わりに男の俺が、少し気まずい思いをしたが。


 問題は就寝の時間に起きた。


「そろそろ寝……あ、私、どこで寝よう? 空き部屋、ないよね?」


 美聡は母に尋ねた。

 以前は我が家に一つだけあった空き部屋で、美聡は寝泊まりしていたが、そこは今、リリィが使っている。

 

「あら、そう言えばそうだったわね。そうねぇ、私の寝室、使う? 私はリビングで寝るわ」

「いや、さすがにそれは悪いし……」


 美聡は少し考えた様子を見せた。

 そしてチラっとリリィに視線を送る。

 ……リリィに一緒に寝てくれと頼むのだろうか?


「わたしは、みさとと、いっしょでも、かま……」

「じゃあ、聡太と一緒に寝ようかしら?」


 美聡は笑いながら俺の腕を掴んだ。


「えぇ……暑苦しいだろ」

「いいじゃない。小さい頃は一緒に寝てたんだし。何か、問題ある? 私たちの仲でしょ?」


 ……いや、別に構わないと言えば構わないのだが。

 男の俺と一緒に寝るよりは、母と一緒に寝た方がいいんじゃないか?


『ダメ、ダメです!!』


 俺が答えるよりも先に、リリィが割って入って来た。

 俺と美聡の腕を、強引に引き剥がす。


『ミサトがソータと寝るくらいなら、私がソータと寝ます!』


 何だか、デジャブを感じるな……。


「いや、それはおかしいだろ」

『おかしくはないです!! ミサトと一緒に寝れるのに、私とは寝れないのですか!!』

「あぁ、いや……」


 そりゃあ、そうだろう。

 と、俺が答えるよりも先に美聡は笑い声を上げた。


「なら、私と聡太と、アメリアちゃんの三人で一緒に寝る?」

『……いいでしょう。それなら、許します』


 ……俺の意志は?

 さすがに三人は狭いだろ。

 というか、美聡がいたとしてもリリィと一緒に寝るのは問題がある気が……。


 俺が反論しようとした、その時。


「あら? じゃあ、私も一緒に寝ようかしら! 四人で寝ましょう!!」

 

 バカ親がアホなことを言った。

 そうはならんだろ。





 リビングにて。


「そーたのとなりは、わたしです!」

「私も聡太の隣ね」

「なら、私は美聡の隣にしようかしら? ふふ、久しぶりね、こういうの!」


 布団を敷き、俺たち四人は横になっていた。

 我が家に布団は四枚もなく――二枚しかない――ので、地味に狭い。


「あのさ。俺、自分の部屋で寝ちゃ……」

「だめです」


 腕を掴まれた。


「そーたは、わたしの、となりです。これは、きまりです」


 リリィは頬を膨らましながらそう主張した。

 何だか変なスイッチが入ってしまったようだ。

 

 原因は……美聡か?

 リリィは美聡に張り合う癖がある。


 美聡が昔、俺と一緒に寝ていたという話に、変な対抗心を燃やしているのかもしれない。


 そんなこと、対抗するものじゃないと思うのだが……。


「じゃあ、灯り、消すね」


 美聡は半笑いを浮かべながら、灯りを消した。

 景色が暗闇に包まれる。


 隣からは僅かにリリィの息遣いだけが聞こえてくる。

 僅かに触れ合う肌から、ほんのりと体温が伝わってくる。

 ……ちょっと、近くないか?


「リリィ、もう少し、離れられない?」

「むりです。ギリギリです」


 リリィの吐息が耳元を擽った。

 変な気分になりそうだ。


 俺は慌ててリリィに背を向けた。


「おやすみ」


 そう宣言し、瞳を閉じる。

 どうしても緊張してしまう。

 ……リリィのことは、忘れよう。


 俺はリリィから背を向け、頭の中で羊を数えた。

 羊の数が二百を超え、だんだんと微睡み始めた……その時。


「ん……」


 背中に何かが抱き着いてきた。

 暖かい体温と、柔らかい感触を感じる。

 ドキっと心臓が跳ね上がり、目が覚める。

 

『ソータ……』


 甘えるような、蕩けた声が後ろから聞こえてくる。

 寝言か……。


『……好きです。愛しています』

「……え?」


 思わず、声が出てしまった。

 同時にリリィの体が一瞬、強張るのを感じた。


 まさか、起きてる?


 寝言……じゃない?

 好きって? 愛してるって?

 ……俺を?


 もしかして、俺が寝てると思って……。


 俺は緊張しながら、リリィの次の言葉を待つ。

 しかしリリィは何も話そうとしない。

 やはり寝言だったか?

 いや、それにしては息遣いがおかしいような……。


 気のせいか?


「リリィ。もしかして、起きて……」


 耐えきれなくなった俺は、小声でリリィにそう尋ねた。

 すると……。


『た、食べられません。も、もう、お腹いっぱいです……』


 食い物かい!!

 

 どうやら、好きと言うのは食べ物のことだったようだ。

 俺はほっと、胸を撫で下ろした。



_______________



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①は2話、②は8話、③は10話、④はカクヨム未掲載のシーンです。


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