第23話 帰って来たダニエルおじさん

「ダニエルおじさん? 君はもしかして、メアリーの娘のアナベルかい。

 迎えに来てくれたんだね。母さん、いやおばあちゃんの具合はどうなの?」


「おじさんの馬鹿! なんでもっと早く帰ってこないのよ。おばあちゃんずっとおじさんのこと待ってたのに。もうお葬式も済んじゃったよ」

 あたしは思わず怒鳴ってしまった。


「母さんが死んだ……」


 おじさんはその場に座り込んでしまった。不精髭生やして服も靴も泥だらけだった。きっと仕事場から、着替えもしないでそのまま走ってきたんだ。


「なんで電話くれなかったの。ママも連絡が取れないって、ずっと心配してたよ」


「すまない、僕は携帯電話を持ってなくて。連絡を受けてすぐ、一番近くの飛行場に向かったら、ちょうど飛行機が出るところで、電話をする暇がなかった。


 その後も公衆電話がふさがっていたり、バスも列車も乗り継ぎがギリギリで、やっと列車の中から電話したら、何度かけても誰も出てくれなかったんだ。

 多分、その時がお葬式の最中だったんだ。そうか……あの時、母さんはもう死んでたのか」それきり黙ってしまった。 


 疲れ果てて、もうしゃべる元気もないようだった。きっとお腹も空いている。あたしは黙って最後のスコーンの入った袋を渡した。


「食べて、元気でるよ」


 おじさんはノロノロと袋を開けて、ひと口食べた。


 そして「母さんごめん」と言って泣き出した。


  無理もない、おばあちゃん味のスコーンなんだもの。

 ちゃんとおじさん用に、一個残しておいてくれてありがとう神様。


 でももう五時をだいぶ過ぎた、日没が近い。この奇跡の力が残っているうちに、おじさんとおじいちゃんを仲直りさせるんだ。


 あたしは泣き続けるおじさんの手をとって言った。


「おじさん、おばあちゃんはおじさんが家を出てからずっと、おじさんとおじいちゃんが仲直りするようにって祈り続けてたの。ママも私も一緒に祈ったよ。


 もし、おばあちゃんに悪い事したって思う気持ちが少しでもあるんだったら、おばあちゃんの二十四年かけたお願いを叶えてあげて。これは世界中でおじさんにしかできないことなんだから。

さぁ立って家に帰ろう、日が暮れちゃう前に」


 おじさんはあたしに手を引かれて歩き出した。

子供のあたしの方が大人みたいに大股で歩く。

 もうすぐ日没、どうか間に合って。

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