第19話 ルナとダイアナ

「あたしにしてほしいこと何かある?」

 もう一度うなずいた。


 その時バスが来た。バス停の待合室にいた人たちが、みんなバスに乗って行く。なのに一人だけ乗ろうとしない女の人がいる。


 大きなキャリーバッグを持って座っているその人は、眼鏡をかけて太ってたけどダイアナさんによく似ていた。

 歳も同じくらいだった。いつの間にかダイアナさんは、その人のそばに立ってこっちを見ている。

 あたしはバスの待合室に入って、その女の人の隣に座った。 


 次のバスに乗る人たちが、一人二人とやってくる。十五分後、またバスが来た。でもその女の人は乗らない。次のバスも、次のバスも、立ち上がりはするけど、結局乗らなかった。


 一バスごとにその人の表情は暗くなり、ついに泣き出してしまった。

あたしは訳が分からずオロオロ。ダイアナさんは悲しそうな顔で見ている。

 しゃべれないって本当に不便だよー。


「グギュルル」その人のお腹が鳴った。

人間てどんな時でも、お腹だけは空くんだ。


「あの、よかったら食べる?」

 あたしの差し出すスコーンを

「ありがとう」

 と言って、女の人は受け取った。

始発のバスの時間からずっとこのバス停にいたと言う。


「どうしてバスに乗らないの?」


 あたしが聞くとその人は二つ目のスコーンを食べながら話し出した。


「一人でバスに乗るの五年ぶりなの。私長いこと引きこもってて、いつも一緒だったお姉ちゃんは死んじゃって、だから怖くて乗れなかったの」


 ダイアナさんとルナさんは双子の姉妹で、小さい時は何でも一緒の仲良し姉妹だった。

 ところが、この街に引っ越して来てジュニア・ハイスクールに上がった時、クラスが別になって、内気なルナさんはいじめにあい、引きこもってしまったのだ。


 二人のご両親は、ルナさんを怒ってばかりいたそうだ。


 ママは『お腹にいた時、良いとこが全部お姉ちゃんのほうに行っちゃったのね』と言った。


 パパは『褒めてやるところが一つもない。少しはお姉ちゃんを見習え』って。


 でもお姉ちゃんだけは、ずっと変わらず優しかった。

引きこもって絵ばっかり描いてた私をいつも励まして、私の描いた絵を額に入れて部屋中に飾ってくれてた。


 私はやけ食いしてこんな太っちゃったけど、お姉ちゃんはスマートで美人だし、学校の成績だっていつもAかA+でクラス委員長。

 当然両親の期待はお姉ちゃんにだけ集まった。


 でもお姉ちゃん、いつも言ってた。

『私は優等生なんかじゃないわ、ただ努力してるだけ。天才は、ルナの方よ』 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る