第14話 奇跡のメッセージ

『ところで、明日はクリスマスだ。私の教会でもクリスマス礼拝をやるんだが、私はこの通り怪我をして出られなくなった。だから責任とって君が代わりにメッセージやんなさいね。

 何、簡単だ。さっき君が私にしてくれた話をすればいい。いやぁ、いいメッセージが浮かばなくてね。神様に祈りながら歩いてたら、空から話が落っこちて来てくれた。祈ってみるもんだ』


 そう言って、お見舞いに来ていた教会の人と、明日の段取りをどんどん進めだした。


 嘘!――だって僕は吃りなんだよ。話すのは大の苦手で、まして大勢の人の前で話すなんて、絶対無理。

 グレゴリオス牧師様は、僕が喋るのをずっと聞いてたんだからわかってるはずのに、どうしてこんな無茶を。


『祈ってごらん。答えが見つかるよ』

 そう言って牧師様は、ニコニコするだけ。


 その夜僕は一晩中祈った

『神様許してください、他の罰にしてください、僕にはできません』


 またもや願いは退けられた。


 そして次の日。教会に連れて行かれ、メッセージ台のマイクの前に立たされたとき、僕はついにこう願った


『神様、僕にはできません。だからあなたに僕の口を差し上げます。あなたが僕の代わりに話してください』


 途端に僕の口は勝手に動き出した。なめらかに、力強く。間違いなく僕の声だった。

 信じられなかった、僕はこんな言葉を語る口を持っていたんだ。


 教会員達は、聞き入っている。感動で涙ぐんでいる人もいる。僕自身、僕の口から出る言葉のあまりの素晴らしさに、途中から涙がとまらなくなった。


 その時わかった、僕の苦しみは、今日ここでこれを語るためだったんだって。

 だから最後にこう締めくくった。


『お父さんお母さん、お子さん達のために祈ってください。お子さん達がどんな苦難にあっても、決して自殺したりしないように、祈り続けてください。神様は必ず願いを叶えてくださいます。

 僕も祈ります、僕はこれから神学校に行って、牧師になる勉強をします。そして卒業したら必ずここに帰ってきます』


 礼拝堂は割れんばかりの拍手に満ちていた。


 メッセージの効果は絶大だった。その後、一人も教会員の家族で、自殺者は出なかった。

 ところが先週、僕は一人の少女の自殺者の葬儀をした。

ダイアナ・ローの家は、五年前に引っ越してきて、お父さんが無神論者だったので、メッセージを聞いていなかったんだ」


 ダイアナ・ロー、十七歳。

 一週間前に死んだ、おばあちゃんの隣のお墓の子だ。

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