第11話 お母さんの後悔

 若牧師様は、さらに話し続けた。


「僕が目を覚ましたとき、両親の葬儀は全て終わった後だった。

 枕元に母さんの親友で同僚だった、タバサおばさんが泣きながら座ってた。

 そして思いがけない話をしてくれた。

 母さんは、お金目当てで父さんと結婚するため、わざと妊娠したと言うのだ。


『そうでもしなかったら、あの子は私の再婚を許してくれない。お腹の子供を殺してまで再婚をやめろとは言わないはず、そういう子なの。私、あの子をどうしても大学に入れてやりたいのよ』 


 なのに僕がどんどん元気がなくなっていくのを見て、母さんはとても後悔したのだそうだ。

『これは罰。お金欲しさに命を軽々しく扱ったから、神様が怒ってらっしゃるんだわ』そう言って泣いてたそうだ。

 その挙句のこの事故、ほんとに天罰だったのかもしれない。


 そして一人残された僕に、義父の莫大な遺産が転がり込んだ。

 タバサおばさんは、そのお金でママの願う大学に行ってくれと言ったが、僕は断った。


 僕は荒れに荒れて、遊びまくった。欲しくも無かった義父の残した遺産なんて、一セント残らず使い切ってやりたかった。

 挙句に大量の酒と、睡眠薬と風邪薬を買って全部飲んだ。そうやったら二度と目が覚めずに死ねるって聞いたから。でも薬を吐いて失敗した。


 そのうちさすがに虚しくなって、昔の仲間に会いに前のアパートを訪ねた。

みんな優しくしてくれた。ここに戻って来たいと思った。

 なのにみんな最後にこういうんだ。

『ねぇちょっとお金貸してよ』

 みんなにはもう、僕が札束にしか見えなかったのさ。


 僕は悲しみのあまり、帰りの地下鉄に飛び込もうとした。

でも駅員や周りの乗客に押さえつけられまた失敗――

 もうわかったよね。僕の“退けられた正しくない願い”とは

『死なせてくれ』だったんだよ。


 それからは、木の枝を見るたび「どこに首吊り用のロープを下げようか」と考えるようになった。でも、ロープが切れて失敗した。

 嵐の海に飛び込んでも、なぜか船が通り掛かってたすかり、とうとう家に灯油をまいて火をつけた。そしてこうなった」


 若牧師様が手袋と鬘をとると、両手と頭全体が火傷の跡で覆われて、髪の毛はほとんど生えていなかった。


 あたしはもう目が点だった。

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