第10話 両親の死

 驚いた両親に問い詰められたとき、僕は生まれて初めて大好きな母に、大声で怒鳴った。


「あんたが悪いんだ。あんたが再婚さえしなければ、僕はこんな事にならなかった。僕はあのボロアパートで、昔なじみのご近所さんと友達のいる公立学校で、充分幸せだったんだ。


 でかいこの家も、すかした私立高校も、無駄に金ばっかり使う生活も、それに満足しきってるあんたら二人も大嫌いだ。

 その腹の中の赤ん坊さえいなければ、僕はこんな思いしなくて済んだのに。そんなやつ生まれてこなくていい、死んじまえ」


 その時義父が初めて僕を殴った。母は驚いて義父を止めようとして、転んでお腹を打ってしまった。

 苦しむ母を連れて、義父はあわてて車で病院に向かった。


 僕は一人で犬小屋の前で犬にすがって泣き続けた。

悪いのは全部自分だとわかっていた。だから必死で神に祈った。


「悪いのは僕なんです。神様お願い、ママと赤ちゃんを助けて」


 でもその願いは聞き届けられなかった。病院へと急ぐあまり、義父はスピードを上げすぎて、事故を起こし、義父と母とお腹の赤ん坊はそのまま帰らぬ人になった。


 警察からの電話で両親の死を知った僕は、浴室で手首を切って自殺を図った。


 心配して駆けつけた警官に発見されて、未遂に終わったけどね。これがその時の傷だよ」


 そう言って若牧師様は、手袋をあげて、左手首の切り傷を見せてくれたのだ。


 あたしは、息がしづらくなった。

「お母さんと赤ちゃんを助けて」って願ったのに、叶えてもらえなかった。


 それが退けられた“正しくないお願い”なの? 






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