第13話  絶叫

「いやあぁアアアァー」


 大声で叫ぶと珠子は駆け出す。

 開けっ放しの北戸の敷居をこえ、ながい渡り廊下を母屋へ、

 安全な世界へと――

 珠子は必死に走った。


「いゃああーぁ。うわぁ、あああ…ひぃい、ぎゃあああああー」


 はく息が全て絶叫になっていた。

 息を吸う時だけ悲鳴が途切れる。喉の奥が痛い、鉄の味がする。

 腿を伝わり滴る径血は、白い靴下に染み、

 血の足跡となって、涙の雫と一緒に点々と珠子の後に繋がっていく。


 痛い、痛い、痛い! 誰か助けて、

 珠子は身体中で叫んでいた。


 不意に珠子は止まる。廊下の終わり、母屋との境の柱にもたれて、栄が立っていたのだ。


「ママー!」

 一声叫ぶと、珠子は栄に縋りつく。


「珠子ちゃん、無事でよかった」

 よろけながらも、栄は珠子をしっかりと受け止めた。


 珠子は栄にしがみつき、しゃくり上げた。

 ママがいる、もう大丈夫。怖いことは終わったのだ。


「みんな見てたわ。叶ちゃんも影に食われてしまった。私はまた、間に合わなかった。でもね約束する。ママ、必ずあの悪い御神木をやっつける。それが冬樹との約束なの……」


 不意に栄の手から力が抜け、珠子を離すと柱に沿ってずり落ちた。

 ひどい熱だった。


「ママ、ママー!」


 珠子の金切り声に、家の者達が駆けつける。


「離れで……叶お母さんと、沙織さんが死んだ」

 そう言い終わると、珠子も意識を失った。




 珠子が、三日後に意識を取り戻したとき、 

 全てが終わり、経血も止まっていた。


「沙織の葬儀も、冬樹と一緒に済ませたよ。沙織は大槻の女だ、珠子ちゃんを守れて、本望だったと思う」

 久保村が言った。


「久保村くん、あのね、私の本当のお父さん、お兄ちゃんなんだって……」


 あの日聞いたことを語る珠子。

 だまって聞いていた久保村は、怪訝な顔をした。


「安心して、君が冬樹の子供である可能性は全くないんだ。

 何故かと言うと、冬樹は“無精子症”だったからだ。大槻の血の濃い男は、ほとんどがそうらしい。

 実は、まだ学生の頃にあいつに頼まれて、冬樹の精子のチェックの後、髪の毛でDNA鑑定もしたんだ。君と冬樹は親子じゃなかった。」


 珠子は、訳が分からなくなった。では珠子の父親は誰なのか。

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