第7話 栄と冬太
「ふーん。あれ、栄と冬太? お母さんと同じ名前だ。誰なのこの人たち、男の人の話が出るなんて、大槻の家では珍しいね」
「栄と冬太は、双子で生まれた姉弟だったの。でもあの時代は、双子は畜生腹と言って、嫌われたから、冬太は遠くに里子に出されて、二人はお互いを知らずに育った。
二人が十五歳になった時、冬太は、大槻家の春の神事の能舞を踊る栄を見て、一目で恋をした。それは栄も同じだった。
その時冬太は、御神木の声を聞いた。
『我に従え。さすればその女を抱かせてやる』
冬太は木に従うと誓い、二人は結ばれた。
冬太は御神木のために、欅の枝を持って、日本中に植えて廻った。
だから御神木は自分の分身を通じて、この国で起きているあらゆることが、聞こえるの。
それは木が切られて、木材になっても可能で、御神木はその気になれば、京都の清水寺の柱の声や、欅で作った仏像の祀られた、寺院の内緒話も聴けるんだそうよ。
でも、冬太の一番の仕事は、徳川家康を助けて大槻の名をいただいたことね。
『大槻の名が、文字として歴史に現れるのは天正十年(一五八二年)六月二日、本能寺の変により、界から逃げた徳川家康が、伊賀の険しい山々を越えた、世に言う“神君伊賀越え”。
落武者狩に遭う危険の中、わずかの供と、道なき山中を二百キロ近く駆け抜けて、三河への帰還を果たした。
その時、槻一族の冬太と名乗る男が道案内を買って出て、進む道を示し、すべての行程と助け手になる者達を用意した。
そして旅の終わりに、その男は『徳川様は天下人となり、十五代・二百五十年の平安を得ましょう。私の仕える槻一族の巫女の言葉に、千に一つも外れはありません』と言ったの。
それを聞いて家康は呵々大笑、『主にあったはツキもツキ、オオツキじゃ。以後大槻と名乗るが良い』」
「わあ、冬太カッコイイ」
「でしょう。小さな集落で暮らしていた槻一族のために、四百年前、御神木を移して今の母屋を建てたのも冬太なの。
冬樹くんも、『僕、冬太になりたい』って言ってたのよ。
女系の大槻家で異例の活躍をした人なの」
「冬太はその後どうなったの」
「それがね、栄様が妊娠して、秘密にしていた二人の関係がバレちゃったの。
兄妹だってことは、二人は知らなかったんだけどね。」
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