第236話 夜桜さんちの その一

 さて。雷火さんとの突発コラボを終えて、翌日。一月二日、時刻は朝の九時を過ぎた頃。三賀日の方が規則正しい生活をしている気もしなくはないが、それはさておき。


「──お二人とも、準備はできましたかー?」

「と、とりあえず?」

「正直、まだちょっと不安が……。大丈夫? 変なところないかな?」

「緊張しすぎでは……?」


 念入りなんてもんじゃないぐらいめかしこんでるのに、まだお二人とも不安なんですか?

 いや、分かりますよ? 実家訪問ですし、お二人の立場的に緊張するのは仕方ないですよ? ……特に一人じゃなくて二人だし。世間一般的には相当アレなことやってるからな、俺たち。

 でも、でもよ? ご存知ないかもしれないですけど、我が家って一般家庭なんですわ。両親も普通の人間なんですよ。……まあ、多少肝が太いところはあるが。

 なのでそんな身構えられても困るんですよ。一応、相手が相手なので気合いを入れてメイクするのは分かりますけど。それでも限度ってもんがあるというか、現状でも既に十分というか。


「お二人とも、ちゃんとお綺麗ですから。不安がる必要なんてないですよ」

「ふぐっ……! 普段ならドキッとする台詞なのに、いまは全然安心できない……」

「山主君。キミの言いたいことも分かるんだけど、これはもう理屈じゃないの……。何を言われても不安になるの」

「マジで我が家のことなんだと思ってるんです?」


 そこまでやったら大丈夫ですよ。数日前からめっちゃネットで『恋人 両親 挨拶』とか打ち込んで調べてんの知ってますからね?

 お二人とも、一度とち狂ってスーツ用意しようとしてましたよね? ……いや、それが正しいか正しくないかは一度置いといて。多分間違ってはないんだろうけども。

 それでもやっぱこう、挨拶される家の息子としては……うん。そんな大層な家じゃねぇし。両親もそんなうるさいタイプじゃないというか、むしろスーツで来られたら俺が母さんから殴られかねんというか。


「……まあ、ここでアレコレ言ってても平行線ですし。むしろ余計テンパっていろいろ空回りかねないんで、もう出ちゃいましょうか」

「待って! 一回! 最後に一回だけ確認させてください! 髪だけ! 髪だけで大丈夫なんで!」

「わ、私も良いかな!? 軽くだから! 鏡の前で軽く整えるだけだから!」

「もう一時間ぐらい前から髪弄ってるでしょうに……。エンドレスになるの目に見えてるから駄目でーす」


 はーい、行きますよー。……なんでちょっと踏ん張るんですか! 手を引かれたら大人しくついて来てくださいよ!? 散歩中の犬みたいなことしないではよ来る! あんま足掻くと俵みたいに担ぎますよ!?


「ほら、忘れ物とかないですね? 大丈夫ですね!?」

「うっ、だ、大丈夫です……」

「また違う意味で不安になってきたよ……」

「だーかーらー! 俺の親を何だと思ってるんですか! 俺の親ですよ!? こんなのと未だに縁切ってない親ですよ!? お二人がジャージで挨拶に来ても受け入れますよ!」


 まあ、ちょっとだけ固まるかもだけど! その後に『これやらせたのお前か?』ってこっちに飛び火するかもだけど! どうせちょっと話せば多様性で納得するぐらいには許容範囲が大きい……いやもうぶっちゃけると変な親なんで!

 本当にそんな身構えないで!? 何度も言うけど俺の親ですからね!? 父さんとか酷いですからね!? 仏様ブチ殺した報告した時の第一声が『え、じゃあ檀家辞めなきゃだったり……?』だったんですよ!? 神殺ししてきた息子を祝うでもなく、責めるでもなく、檀家云々のこと心配したド天然野郎ですよ!?

 ちなみに母さんは、『……まあ、アンタは死んだら地獄に行くべきだとは思うよ』とかのたまってくれやがりました。息子のこと何だと思ってんだあの人。……いや、普通に殺人経験あるから地獄行きって評価は否定してねぇけどさ。

 まあ、俺が堕ちる地獄なんてないんだけどね。分類的にはとっくに人間じゃなくなってるし。ダンジョンでおっ死んでも、多分肉体の軛から解き放たれて神の、あの高次元存在の仲間入りするだけだし。

 て、違う違う。そうじゃねぇ。話が逸れた。ともかく、うちの親ってガチ緩いんで。見た目とかマジで気にしないんで。お二人の性格なら、普通にどっちからも気に入られますよ。……そんで、そんな良い娘さん二人を囲ってる俺がドヤされるという。


「正直、うちの親ってアレですからね? 何かあればまず俺が原因かどうかを疑ってくる人たちですからね? お二人がマジで失礼なことをしても、矛先は基本俺に向くんで。気楽にしてください」

「それを聞いて安心できるとでも!?」

「というか、それって大丈夫なの……? 山主君、実はご両親との仲、あんまりよくなかったり……?」

「いえ。ほぼほぼ身から出た錆です。高校の時にダンジョンでやんちゃしまくったせいで、両親の中で俺に対するいろんな信用が地に落ちてるというか」


 根っこの部分の人間性とか、そういう大事な部分に関しては、ちゃんと親らしく信頼されているのだが。……それ以外の表層部分、常識とか普段の言動とか、そのあたりに関しては一切信用されてないんですよね。

 何かあればマジで速攻疑われるし、誤解だと判明しても謝られた上で説教が飛んでくるという。


「まあ、高校時代に信用できない生き方をしてた俺が本当に悪いんですけど」

「本当に何してたんです……?」

「えーと、死ぬような怪我をしたことを頻繁に隠してたり」

「それは駄目じゃない?」

「そういう怪我をした翌日に、寄り道と称してダンジョンに潜ったり」

「本当に何してるんですか!?」

「いや、基本的には隠し通せてたんですよ? ただ探索者としてトップクラスの実力が付いたあたりで、その、ケジメとして両親にぶっちゃけたら……バチクソに怒られまして」

「「でしょうね」」

「それ以来、俺に対するありとあらゆる信用が地に落ちました」


 まあ、エグい隠しごとをしてた俺が悪いのだが。……ただ逆に言えば、そんな隠しごとをしていた俺を見限ることもしなかったというわけで。

 なので、本当に緊張する必要なんてないですよ。お二人とも、俺と比較すれば断然マトモですし。なんなら、息子の俺より気に入るまであります。うちの親はそういう親です。













ーーー

あとがき

甲子園見てから書いたので遅れました。それもあって短めです。

一応、ここからこの章のメインエピソードに入る……かも? 実はちょっと悩んでるんですよね。考えてる内容はあるんですが、書くかどうか、うーんって感じ。

まあ、その時になったらルート分岐を提示するんで。その時はよろしくお願いします。







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