第109話 識者は語る
「──流石に俺、燃えすぎでは?」
自然とそんな言葉が漏れた。感想としては『またかよ』ってところだろうか。
昨夜、配信中に妙な鳩が飛んできて、調べたところ発覚したのがテキサス州でのモンスターパニック。その直後にネット、メディアで緊急速報が届けられるぐらいには大事となった大惨事。
個人的には、映画みたいになってんなぁと観客気分でいたかったのだが、そうはいかないのがVTuber、いや配信者? ……まあともかく、知名度のある立場というものである。
事態が広まるに比例して、爆増していく鳩、リプライ、マカロンの山。流石に不味いかと配信は早々に切り上げはしたのだが、その勢いは増すばかり。
で、一方的なお気持ちで炎上発生というお馴染みの流れである。タチが悪いのは、こっちが勝手に動くとそれはそれで燃えることである。いやむしろ、法律的な問題があるので勝手に動く方が不味かったりする。
いやー、俺の知名度ゼロだったらまた話も違ったんだけどね。表舞台に出ている以上は、無法はあんまりできんのですよ。世間から注目されている場合は特に。
「世間って、何でそんな簡単なことも分からないんかなぁ……」
「自分の立場を理解してないお前が言うな」
肩を竦め同意を求めれば、返ってきたのは苛立ち混じりのツッコミ。ツッコミの主は、夜桜係でお馴染みの玉木警視正。
同盟国がパニック映画の舞台となったことで、朝一で俺のところに車を飛ばしてきた苦労人。毎度毎度こき使われてるなって思う。
「その立場で気になったんだけど、玉木さん何で今日来たの?」
「あぁ?」
「だってアンタ警察じゃん。協会のお偉いさんとか、外務省の人間が話を聞きに来るのは分かるけど、玉木さんは違うでしょ。縦割り行政はどうしたのさ」
「俺だってこんなことに首突っ込みたくねぇよ! でも仕方ねぇだろ! お前の機嫌第一なんだからよ! 下手な奴に任せるより、顔見知りの俺を引っ張ってきた方が良いって上の判断だ。畑違いなのはこっちだって重々承知だっての」
「宮仕えは大変だねぇ」
「苦労の大半はお前が原因なんだよクソが!!」
刑事にあるまじき口の悪さである。まあ自覚はあるのだけど。
あとぶっちゃけてしまうと、上の人らはナイス判断だったと思う。知らん人らがやって来ても、俺絶対に応対しねぇもん。最終的には玉木さんがドナドナされてくるだろうことを考えると、二度手間になることは避けられたかなって。
「んで、よ。状況としてはどんな感じなの?」
「何がだ」
「アメリカと日本政府」
「どっちもてんやわんやだよ。つっても、詳細はそこまでだ。今回の俺は受話器みたいなもんだからな。一応資料も与えられてはいるが、専門的な見解は持ち合わせてない」
「それでも、俺よりは状況分かってるでしょ? こっちはテレビとネットに出てる情報しか知らんし」
なんならそれも歯抜けと言うか、流し気味に眺めてただけだからそこまでだし。
「ならこれを読め。今回の件を大まかにまとめた資料だ」
「ほーん? 部外者に見せても良いわけ?」
「許可は取ってある。それに日本政府としても訊きたいこともある」
「……話せることなんて特にないんだけど?」
「建前はなしだ。こっちはお前が上位の鑑定スキル、またはそれに類するナニカを持っている前提で話してんだよ。それを抜きにしても、国内、いや人類の中で一番ダンジョンに詳しいのはお前だろ」
「……ナンノコトヤラ」
「ざけんな。そもそもお前、昨日の段階でドラゴンがどうとかポロッと零してたろうが。白々しいんだよ」
「えー。オッサンが俺の配信チェックしてるとかキモイんだけどぉ」
「殺すぞ」
シンプル殺害予告。本当にこの人警察なんだろうか? とは言え、俺と玉木さんの仲である。茶化すのも程々にしておくか。
「──【樹菌龍マイシュウッド】」
「あ?」
「あのドラゴンの名前だよ。相当碌でもないよアイツ」
「待て。今から上に繋ぐ」
「えー。録音で良くない?」
「状況は刻一刻を争うんだよ。それに話し相手はあくまで俺だ。お前が気にすることじゃない」
「はぁ。まあ良いけど。知らん人の声は無視するから、そこんところヨロシク」
「その時は受話器として俺が喋るだけだ」
基本は玉木さんとの会話形式。で、その都度上から質問内容が飛んでくるって感じかな? まあ、知らん相手から命令されないのなら構わんか。
ともかく。準備ができたのを確認してから、阿頼耶識にて読み取った特徴を語っていく。
「良し。それじゃあ、モンスターの特徴から」
「樹菌龍マイシュウッド。あれは名前の通り、樹木と菌の特性を宿したドラゴンだ。大地に根を張り、養分を奪い続け、奪った養分で破壊をもたらす。放置すると延々と被害が拡大する系。テキサスどころか、向こうの大陸そのものが不毛の地になるね。死の大地ってやつ」
「……何だそのデタラメは。どうしてそんなのが外に出てきてやがる。スタンピードにしたって、確か出てくるのは下層までのモンスターのはずだろうが。何でいきなり湧いて出てきた?」
「何故って言われても。スタンピードで確認されてるモンスターが、現状では下層までしかいないってだけだからでしょ。深層以下のモンスターだって、条件が揃えば出てくるって」
スタンピードって、結局はアレだからね。ダンジョンが発令する大移動命令だから。
ダンジョンが『外出ろ〜外出ろ〜』って言ってる間だけ、モンスターが移動する。そして命令が消えると、モンスターは元いた領域に戻る。
で、深層以下だと指示が出ている間に出入口に辿りつかない。だから必然的に下層までのモンスターしか確認されない。
もちろん、深層以下のモンスターが本気で移動したら話は変わるし、ダンジョンからの命令次第では十分その可能性もあるが。……幸いなことに、現状ではそこまでのスタンピードは確認されていない。
「……つまり、今回はその条件とやらが揃っちまったってことか」
「特例中の特例だろうけどね。ドラゴンなんて深層飛び越えて超深層、それも深淵寄りの存在だし。アイツだけポツンと現れてるのは流石におかしい。可能性とすれば……召喚とかかな?」
「……確か資料には、テキサスで起きた前回のスタンピードでは、ドルイドが確認されていたとあったはずだ」
「じゃあ多分それだ。アイツは性質が植物だし。運良く極小の木片が召喚されでもしたんだろう」
破片だけなら、下位のモンスターでも召喚することは可能だろうし。それが討伐されずに残り、根を張って成長した結果が今回の一件の真相かな?
「……つまり今後は、召喚系の能力を持ったモンスターがスタンピードで確認された場合、警戒レベルを跳ね上げる必要があるのか」
「そうなるかもねー」
「他人事みたいに言いやがって」
「そもそもスタンピードを起こすのが悪いし。国の管理不足じゃん」
「あんま否定できないけどよ……っと、ちょっと待て。連絡が入った」
「ほん?」
「良いニュースだ。ミサイルによる飽和攻撃、及び合衆国の虎の子のエージェント……向こうで最上位の実力を持った探索者たちの尽力により、モンスターの討伐が確認されたそうだ」
ほわい? それマジで言ってる?
「討伐できたん?」
「ああ。モンスターの崩壊も確認された。地上に出たモンスターはアイテムの類を何も残さないが、死んだら塵になるプロセスは変わらないからな。崩壊が確認された以上、討伐されたと見て間違いないだろう」
「なんだ。やっぱり討伐されてないんじゃん」
「……何言ってんだ? ちゃんと塵となったって言ったろうが」
「そっちこそ俺の話ちゃんと聞いてた? 樹菌龍だよ? 『樹』と『菌』の性質を持ったドラゴンだよ?」
「……待て待て待て待て! それってまさか……!?」
「アレの正体は群体だよ。地上で暴れたのは端末、しめじの中の一本を潰したにすぎない。大地に張られた根……菌糸? まあともかく、その全てをどうにかしないと討伐できたとは言えないさ」
気を抜いてるとまた出てくるぞ? しかも大地の栄養を食い潰して。そして足りなくなったら、更に広範囲に根を伸ばして侵食してを繰り返す。……つまり何が言いたいかというと。
「──ドラゴン舐めんな。相手は神話に語られる試練の代名詞だぞ? 神秘を切り捨てた人類が、そうやすやすと抗えるかよ」
ーーー
あとがき
昨日はちょっと脳みそ焼かれて一晩中寝ちゃいまして。……9番はラッキーナンバーでした。
あと作中で長々と語ってますが、大抵が既に既出の情報だったりします。そこから推測できるかなって感じ?
気になった人は、また読み返してみると面白いかも?
それはそうと、告知でございます! 本作二巻の予約カートが、五月九日より解禁されました!
つまり二巻出ます! なんならWeb版にはない要素がガッツリ盛り込まれております! ……多分読んだらビックリするヨ。
てことで、是非とも皆様買ってください!
特に三巻、四巻……と続きを求めてる方は購入必須ですよ! シリーズ化には高い売上が必要ですからね!
そんなわけで第二巻の予約、どうかよろしくお願いいたします! もちろん、第一巻の購入もネ!
まだ買ってないって人は、二巻の予約と一巻の購入を!
もう買ってるよって人は、周りの人にオススメしたりしてください!
買って!!!!!
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