作者の顔が伺えるスペシャリテ

コロナ禍の中に息づく女子高生の手に取るような恋心を描いた作品と言えると思います。
そのリアリティは読んだ方には否応なくひしひしと伝わると思うので、敢えて多くは語りません。
こちらのレビューで書きたいのは、その女子高生のアイデンティティのひとつに“厭世的”があるということです。そしてそれがそのまま、新代さんのアイデンティティではないのかな、ということです。
いつもハッピーエンドにはならない、不幸が集まっているなど、僕からすると、女子高生にしては厭世が過ぎるようです。
これが長編小説なんかだと、回想があって女子高生が厭世的に世を見る所以を明かす必要なんかが出て来るのでしょうか。
しかし、こちらの短編小説では、一切それらのことは書かれていません。厭世は主題でないので、掘り下げる必要はなく、また作品の中でも、厭世的主張がらんらんと輝いて主張もしません。この女子高生の個性のひとつとしてそこにあるだけなのです。
まるで、こう考えるのは普通でしょ、と言わんばかりに。
多分、そうなのではないでしょうか。
新代さんからすれば、厭世的に語るのは、不自然ではなく、創作でもなく、世界を新代さんというフィルターを通せば、このような色に映るのでしょう。

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