船内検疫スタート

2/5 早朝から、全ての乗客は部屋に戻るようにと再三の船内放送が入り、


「この船からコロナウィルス陽性患者が出たため、乗船客達は検疫下に置かれます。許可なく室外へは出る事が出来ません」


といった内容のアナウンスが流れました。


「部屋から出る事は出来ない」


という放送は何度も流れ、最終的には、英語、日本語、中国語の三カ国語になり(通常は英語と日本語)、暫くすると、部屋から出ようとすれば廊下にいる監視員から強い口調で室内に戻るよう注意されるようになりました。


(とうとう始まったな……)


既に覚悟は出来ていました。


考えてみれば、期間はたったの二週間です。物凄く長いという訳ではありません。


それに、この船内のお部屋を私はとても気に入っていました。


内装も私好みの落ち着いた造りで、ベッドは最高に寝心地が良く、窓を開けてベランダに出て、気分をリフレッシュさせる事が出来る。


この部屋がとても好きで、クルーズ中は公共スペースにいるよりも、自分の部屋でほぼ過ごす事が多かったほど。

(後から考えれば結果的に良かったのですが)


横浜の美しい景色を十分に堪能しながら、ここで過ごす事は何の問題もないように思えたのです。


船内の記録用にTwitterのアカウントを開設し、準備万端でした。


この時点では深刻さはほとんどありませんでした。


『ちょっとクルーズが延長した』くらいの呑気さでいました。


ただ、現場は大混乱しているんだろうなという事は直ぐに伝わって来ました。


先ず、食事の時間がかなり遅れ、お昼近くになって朝食が届いたり、夜の9時を過ぎてから夕食が届くこともありました。


これらが改善されたのは検疫期間の終盤あたりでした。


色々な事がスムーズに行っていないとはいえ、きちんと調理された食事が配膳され、本来は有料のミネラルウォーターも、客室に無料で充分に配られ、船側も少しでも乗船客達の負担を減らそうと、最大限の努力をしている事が伝わってきていました。


多少の不自由は感じながらも、まだまだ楽しいクルーズ旅行の気分のまま、何気なく他の乗船客の様子をTwitterで検索すると、


「薬が無い!体調が酷く悪い!」


とSOSを出す乗船客の方たちの姿が目に飛び込んできました。


その時に初めて、この船の置かれている深刻な状況に気づかされたのです。



『薬の確保』


は早急に解決しなくてはならない問題でした。


クルーズ船の乗船客の大半は高齢者の方です。


皆さん何かしらの薬を服用されている方がほとんどです。


また持病をお持ちの方もいらっしゃいます。


親族が近くに住んでいる場合は船まで持参して直接届けてもらう事が可能でしたが、大勢の方はそれも出来ず困り果てている様子でした。


薬の手配書は直ちに用意されましたが、実際に全ての方に薬が届けられたのは、日数が経ってからでした。


乗船客の人数に対して、とにかく支援の人手が足りなく、最終的にはかなりの人数の薬剤師の方たちが派遣されたようでした。

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