十三の話

 四方を海に囲まれたこの国は、南北に細長い形をしている。

 西と東に都があり、西の都は菊都きくと、東の都は洸都こうとと呼ばれている。

 京には天皇という神様の子孫が代々住まわれ、この国をべられていた。

 洸都には将軍という偉い御方もいて、そちらはまつりごとを束ねる役割をしている。

 李花が長らく居た本城宿ほんじょうのじゅくは、西の都よりも東の都、洸都に近い。未明びめいが暮らす深埜しんのも洸都寄りに在る。

 蓮伍れんご志蓬しほの夫婦は、洸都から来た、と言った。

 蓮伍は洸都で菓子職人の見習いをしているという。

「よくまあ、暇をもらえたな」

 未明に言われ、蓮伍は照れくさそうに頭を掻いた。

「せっかくだから嫁と出かけてこい、と師匠につまみ出されたんだ」

「この人、よその土地に行っても菓子のことしか頭にないのよ」

「饅頭が好きなだけだよ。美味かったろう、さっきの小さな饅頭」

 急に蓮伍に話を振られ、李花はびくついてしまった。

「美味しかった、です」

 李花はしどろもどろに答えたが、蓮伍は気にする風もなく、よしよしと李花の頭を撫でる。未明と志蓬に睨まれ、蓮伍は不服げに李花から離れた。

 未明は、李花の手をぎゅっと握る。

「俺達は尾子宿おしのじゅくに泊まるつもりなんだけど、そちらさんは」

「俺らも尾子宿でいいよな」

「ええ」

 蓮伍に確認され、志蓬は頷いた。

「ならば、志蓬に頼みがある。李花と同じ部屋に泊まってくれないか」

「いいわよ。李花、たくさんお話しましょうね」

 はい、と李花は答えた。女同士で同じ部屋にしてくれるのは、未明なりの気遣いだろう。それに、李花は志蓬のことが怖いとも苦手だとも思わない。

 志蓬は目鼻立ちがはっきりして口紅が映える美人。威勢が良くて男勝りだが、冗談を交えつつも夫を立てる良き女人だ。こんな人になりたいな、と李花はこっそり思った。



 冗談をとばし、笑いながら街道を歩む。李花はほとんど話を聞くだけだが、今までのような窮屈は感じない。

 もしかして、これは楽しいという感情なのかもしれない。

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