術後



 夜中に苦労しながらトイレに行ったり(病室にトイレない)、温くなったアイスノン替えてもらったり、なんやかんやで無事に朝を迎え。


「入ってもいーい?」

 ぼけーっとしてたらお嬢がまたやって来る。

 一応断りを入れたり、うちのおっ母には敬語で喋ったり、礼儀正しいしっかりとしたお嬢さんではあるのよね。


 いいよーって言って振り返ったら、ちょっと驚いたような顔になって「痛い?」って心配そうに訊いてくる。顔の右半分にガーゼ固定されてるんだから驚くわな。

 痛くないよーって答えたら、頷きながら「点滴まだあるね」と笑う。お嬢の面倒臭いところは会話がちゃんとしたキャッチボールにならないところだ。


 お嬢のお喋りに付き合ってたら、見回りの看護師さんが驚いて飛んで来て、さり気なく引き離そうとするんだけど、空気読まないお嬢は気にしない。

 いいっすよーと諦めの境地で笑ってると、やっぱり「すみません、すみません」と恐縮の態で頭を下げてくる。いやマジでもうどうでもいいよ。何事もなければあと数時間の我慢だろうし。



 そして!

 待ちに待ったご飯!


 お味噌汁! 飲みたかったんだよ、お味噌汁!

 大喜びでお味噌汁啜ってご飯食べて、おかずの大豆と根菜の含め煮みたいなの口に入れた瞬間、急激に食べる気力が失くなる。吐き気すら感じる。

 なんでだろう。確かに未加工の大豆は嫌いだし、蓮根も牛蒡もそんなに好きじゃないけど……悲しい。お腹空いてたのに。

 どうやら私は自分で思っているほど元気ではなく、かなり消耗してまだぐったりしていたようなのです。


 なんとかご飯半分とお味噌汁だけは食べて、よたよた病棟診察へ。

 因みに、腕が曲げられない所為で髪の毛が結び直せなくて、結構なバサバサ頭でうろつくことになっているんで、更に気分はぐったりなんだぜ。


「ガーゼ外すねぇ」とK先生。

 なんかもう実はO先生ではなく、こいつが私の主治医なのではないかと思い始める。

「痛くない?」と訊かれたので、点滴の針を示す。苦笑い。

 目がチクチクするって言ったら、頷きながら「それ糸」と言われる。やっぱり糸か。


 部長先生に無理矢理瞼を開かれる。

 痛い、痛い……「痛いかぁ。ごめんねぇ」と言いつつ容赦なくグイーッ。痛いって!


「問題ないので、予定通り今日退院していいと思うよ。詳しくは外来で診てからね」

 と言うことらしいので、部屋に戻ってお着替え(まだ術衣だった)

 右目からだけボロボロ流れ落ちる涙は茶に近い黄色っぽくて、どうやら血が滲んでいるようだ。仕方がない。


 部屋に戻って。ガーゼ外れたから鏡を覗いて見たら――これはデビ○ズラインだ!

 白目が充血してるどころではなく、マジで血の色で真っ赤なんだよ。寝不足ですどころではない真っ赤っか!

 あと眼球がツルッと丸みを帯びてなくて、なんかデコボコしてる。恐えぇ~……


 ようやく点滴も外れたけど、まだ元気が出て来ない。涙も止まらない。

 お嬢のお喋りに付き合いつつ、なんとか髪の毛を結い直して外来へ。


 いつも通りに視力検査と、あの謎の定規をあてられたあと、眼圧検査(空気砲)――やめて! 死んじゃう! ギャアーッ!

 ……いや、そこまで痛くはなかったな。取り敢えず空気当てられて乾いたのが痛かったけど。

 血の滲む涙を零しながら眼圧検査機を恨みがましく睨んでいると、技士さんが目薬を持ってやって来る。


 そ、そいつは――散瞳検査用の目薬!!


 沁みる、やめて、死んじゃう……と必死に涙流しながら訴えると、技士さんが憐憫の表情で「そうだよね、沁みて痛いもんね。じゃあ先生に言っておいてあげるね」と解放してくれる。話がわかる人だ。


 しかし、待合室で診察待ちしてたらティッシュ箱片手にさっきの技士さん登場。

「やっぱりね、散瞳してって先生が。好きなだけティッシュあげるから頑張って」


 アッー!!


 まあ沁みるのは一瞬なんだけどね。じわじわズキズキ長引いたりはしないからいいんだけど、痛いのは痛い。溢れ返る血の滲んだ涙。


 ボロボロ涙溢れさせながら、まずはK先生――て、やっぱり私の主治医ってK先生なんじゃないの?

 このときに眼位が40→11になったことを聞かされる。

 よくわからないけど、数字を聞くだけなら随分と改善された感。

 取り敢えず痛み止めをくれって言ったらロキソニンを処方してくれて、相変わらずの軽さで「来週診察予約しとくねー。お大事に~」と(勝手に)予約を入れられ、今度は部長先生のお部屋。


 部長先生の診察も滞りなく終わり、やっぱり今日退院していいってことになったので「お大事に~」で終了。


 ありがとうございました!




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