主役になれないコンチェルト

第1話 スポットライトは当たらない

指揮棒が降り、ホールの中に、残響が満ちる。

スポットライトは、ステージの中央に。

大雨のような拍手は、そこに立つソリストに降り注ぐ。


――眩しい。


私は、顔をしかめる。

スポットライトは、当たっていないのに。



私の立ち位置は、今日も、2ndバイオリンの三列目。

青響せいきょう高校音楽科のオーケストラのスプリングコンサートで、フルート協奏曲コンチェルトを演奏し終えた私たちは、舞台袖にける。


瑠奈るなー!」

赤いドレスを着た奈央なおが、銀のフルートと花束を脇に置き、駆け寄ってきて、私に抱きつく。


「奈央、お疲れ」

「あー、緊張した!どうだった?」

「完璧。めっちゃ、カッコよかったよ。さすが奈央」

私が言うと、奈央は、顔をくしゃっとさせてはにかむ。


「瑠奈が後ろで弾いてくれてるって思ったら、安心して吹けたよ」

「そんな、こと……」


私がいるかどうかなんて、絶対、関係ない。

でも、奈央は、きっと心から、こう言ってくれている。

奈央は、昔から、こういう子だ。

――謙遜すると、もっと、自分が惨めになる。


「いつかさ、瑠奈がソリストで、私がオケで、バイオリンコンチェルト、やりたいな」

「……そうだね」


――そんな未来は、きっと来ない。

私は、ここでは、主役にはなれない――その他大勢の、ひとりだから。



奈央は昔から、「瑠奈はすごいね」と言って、私をキラキラした瞳で見上げていた。


私よりも小さくて、泣き虫な奈央。

私はいつの間にか、奈央の前では“できるほう”でいるのが当たり前になっていた。


小学生のころ、一緒にバイオリンを習っていた。

奈央はいつも、「瑠奈みたいに弾けるようになりたい」と言っていた。

——あの頃は、確かに、私のほうが上手だった。


中学に上がると、奈央はフルートに転向した。

「吹いてみたら、ビビッと来ちゃって」

はにかんだ横顔は、前より少しだけ大人びて見えた。


私は相変わらず、バイオリンを抱えていた。

部活にも入らず、同じ曲を何度も何度も弾いていた。

奈央は吹奏楽部の1stフルートになり、ソロコンテストにも出場した。


中二の冬の夜。

突然、奈央から電話がかかってきた。

「瑠奈、聞いて。私……ソロコンの県大会で、一位になっちゃった」


受話器の向こうで弾む声は、泣いてばかりいた奈央の声とは違って聞こえた。


「……すごいね、おめでとう」

その自分の声も、どこか遠くから聞こえてくるようだった。

喉の奥が、ヒリヒリした。


奈央はいつの間にか、私の脇を、三段跳びで軽々と追い越していったのだ。



奈央と私は、県内唯一の、音楽科のある高校に入学した。

二年生になった今、奈央の名前は、校内の誰もが知っている。

私の名前は、せいぜいクラスメイトにしか知られていない。


――それでも、私は。


いつか、スポットライトの当たる、あの場所に立ってみたい。

大好きな私のバイオリンに、光を当ててあげたい。


そう思い続けて、私はひたすら、

2ndバイオリンの三列目で、しかめっ面して音を奏でていた。


――あいつに、出会うまでは。

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