本作は、卓越した構成を持つ時代劇である。
貧困の境遇に流される文吉。
幼い頃から文吉を苦しめ続けたのは
〝耳鳴り〟であった。
文吉は耳鳴りの音を辿る。
読む者も彼の後ついて物語を辿る。
耳鳴りの音は、文吉の枷であり導きだ。
まさしくタイトルの通り、文吉は音の傀儡であった
後年、音の元を突き止めた文吉。
ただ静けさを求めた彼の行動は、ついに一線を越える。
耳鳴りが消えた瞬間。
音に囚われた境遇から解放される。
この静寂と平穏。
それが読む者には悲しい。
耳鳴りを消す。
その一心だけになった文吉。
耳鳴りの音の強弱だけに我が身を委ねた文吉。
世間の道理から離れてしまった文吉。
もはや彼の心には、音しか無かった。
そして物語は、美しく端正な結末を見せる。
読む者は、きっとその終わりに思いをはせる。
果たして彼は、自由になれたのだろうかと。