この義母、何かがおかしい——朝の食卓に潜む恐怖

 日常の安寧と不穏な気配を同じ食卓に並べてみせたこの風景を書こうと思いつく仁木さんのアイデアがいきなり怖い……。

 義母の人物造形は温厚さと不気味さが紙一重で同居し、読者は安心と不安の間を往復させられます。
 味噌汁の波紋という些細な現象を不吉の兆しへ昇華した着想は古典怪談の作法を踏まえつつ現代的合理解釈を挟み、理と怪の綱引きを成立するのです。

 特に終盤、「出ていない」という一言で論理の支柱を外す転調は鮮やかで、静かな恐怖が遅れて効いてきます。
 説明過多に陥らず余白を残した筆致も品があり、読後、自分の朝食の味噌汁椀の水面を覗き込みたくなる(私は朝はご飯派なので余計に)余韻が残る秀作であります。

「家庭」という最も現実的で平和な場所であって欲しい所を舞台に据えた点も巧みで、逃げ場のない近距離の恐怖がじわりと沁みます。
 義母の台詞運びは簡潔ながら呪文めいており、

 「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎」

 このセリフの余情は古い怪談の結句を思わせて秀逸過ぎました。

 静かな文体で、読者の背後にそっと立つ気配を書く稀有な筆力はいつも魅了されます。
 
 読後に日常の椀や湯気が不意に不穏へ変わる感覚こそ、本作最大の功績であり、怪談の本懐を現代に甦らせた一篇と評したいです。

 端正にして妖しい、実に見事。静かな名品。

 余韻深し。

 必読作也!

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