蜀漢皇帝、劉備の信頼を得ながらも、叛逆者として非業の死を遂げた部将、魏延。
しかし、「三国志」の著者、陳寿や「魏略」の著者、魚豢といった後世の史家は彼を裏切り者としてではなく、忠臣として歴史に名を残させた。それはなぜなのか。
本作では、「三国志」「三国演義」を再構築しつつ、実際にあり得た魏延の心情を再現し、彼がどのように国に殉じたのか、どんな未来を夢見ていたのかを描き出す。
魏延以外にも、彼の宿敵となる性格最悪の楊儀。方法論は異なりながらも同じ目標を見つめる諸葛亮。魏延と戦いながらも、その義に心を揺るがされる王平、馬岱。魏延の生き様に共感と感動を持ち、その後継者となる姜維、柳隠、傅僉。さまざまな人物が瑞々しさと情感をもって蘇る。
劉備に見出され、諸葛亮に反目しつつもどこか共感し、魏延は蜀のために殉じた。蜀の将来を誤らんとした佞臣、楊儀と戦い、裏切りの汚名を着せられて散ったその胸中はどのようなものだったのだろうか。
忠臣にして義将としての魏延にスポットを当て、時代のうねりに葬られんとする輝きを描き出す歴史スペクタクル。
テレビ出演多数のインテリネギ農家、そして同時にWEB小説の作家でもある夢神蒼茫さんの最新作は、三国志を扱った歴史IFものです。
吉川三国志でも、横山三国志でも、「他に人材がいないからって、好き放題威張り散らしてる人」のイメージがある、猛将魏延を主人公に抜擢し、そして彼が実は忠義に厚い憂国の士であった、という想定で物語が進められています。
いわゆる「秋風五丈原」から名場面「俺を切れるものがいるか!」までの短い期間の出来事が、将たちのぶつかり合いや葛藤とともに描かれています。
5万字と、少し量がありますが、極めて読みやすい文体で、サクサクと読み進めることができ、孔明が仕掛けたトリックなども分かりやすく、最後まで息もつかせず一気に読ませるのはさすがです。
三国志での書かれ方がアレなので、悪役として扱われている魏延ですが、あれほど重責を担って活躍していたのですから、ただの傲岸な男というはずはなく、もっと多面性があったのは間違いないでしょう。
本作は、そんな損な役回りだった魏延に、新しい側面から光をあて、再構成したもので、「なるほど、そういうこともあったかもしれないな」と、認識を改める機会となりました。
三国志好きならば必ず面白いと思います。
これはお勧めです。