パートナーを喪った母が推しに出会って救われた。
誰に対しても等しく希望を届けてくれる人気アイドルは、娘の私ですら届かなかった領域にたやすく踏み込んだ。
母は自分よりも彼のことを大切にする。
無論――私よりも。
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今の時代は良くも悪くも「家族」の枠組みが変わっている。
厳重なしきたりに守られた聖域などではなく、ルームシェアする誰かくらいの感覚ですらある。
昔からアイドルに熱を上げる人はいたし、問題のある家庭はあった。
だが、情報がシェアされ、個人の生き方が正当化されて以降、姿すら知らない他人が近く、日夜出会う隣人が遠くなった。
この短編の優れた点は、現実要素のバランスだろう。
過度に毒を盛らない。けれども危うい感じにはする。
話の収束も含め、地に足のついた作品だと思った。
読んでいて、とても胸の痛い小説でした。
まず、この作品には明確な悪意を持った人間が登場しません。誰かを攻撃しようとか、貶めようとか、そんな思いはないのです。
なのに、どうしてか不憫でならなくなる。それは主人公の女の子だけではなく、お母さんにも持つ思いです。愛した人の喪失を、また別の愛で埋める。それが、すぐそばにある愛をおざなりにしていることには気づかない。お母さんは盲目なのです。
女の子は、とても「いい子」です。常にお母さんのことを気にかけている。それゆえに、自分自身が傷つくとしても、その気遣いをやめない。
この小説の素晴らしいところは、そんな悪意なき悲劇を、安易で乱暴な表現でまとめ上げていないところにあると思います。どこまでも静謐で、ゆえに胸に突き刺さる。
そして、最後のシーンでカタルシスが生まれるのです。
静かで少し胸が苦しくなるけれど、その先を読みたい方は是非、ご一読を。
文芸好きの方には特におすすめです。