異世界転生したら、痺れる🍓だった
無月兄(無月夢)
第1話 転生先はまさかの苺!?
吾輩は苺である。名前はまだない。
って、普通苺に名前なんてねーよ!
俺は、山の中にひっそりと成っている苺だ。苺だって心があるし、ああだこうだと考える力を持っているんだ。
ただしそれは、俺の抱える特殊な事情によるものかもしれない。
実は俺には、前世の記憶がある。
こことは違う世界で、しがないサラリーマンとして働いていた記憶だ。
日々の仕事に疲れ、夜中フラフラになって家に帰る途中、トラックに轢かれて死んだ。そして、気がつけばこの世界に苺として転生していたってわけだ。
いわゆる、異世界転生ってやつだ。
いやいや。トラックに轢かれて転生なんてテンプレすぎるだろ!
色んな作品で酷使されすぎて、今はもうほとんど使ってるところなんてないぞ!
しかも、転生したのが苺。人間どころか動物ですらない!
どうせなら、チート能力を持つ勇者とかに転生して俺TUEEEEみたいなのをやりたかったよ。
当然、動くことだってできないから、毎日ボーッとして過ごすだけ。
そりゃ俺だって、苺そのものは好きなんだけどな。
前世で死んだその日も、たくさん働いた自分へのご褒美として、苺を買って帰ろうと思っていたくらいには苺好きだ。
ただ好きなだけでなく、こだわりだってある。一口に苺といっても数多くの品種があって、甘さや酸っぱさや大きさなど、それぞれに特徴がたる。
そんな数ある苺の品種の中でも、俺が特に好きなのは『あまおう』だ。
名前の由来は、甘さの王様だから『あまおう』、なんてのじゃないぞ。
『甘い』、『丸い』、『大きい』、『うまい』。その四つの頭文字をとって名付けられたのがあまおうだ!
普通に食べてもおいしいのはもちろん、お菓子に使ってもいい。
あまおうは福岡で開発された品種なんだが、福岡に旅行しお土産屋に入れば、必ずといっていいほどあまおうを使ったお菓子が置いてある。チョコやクッキーに練り込んであったり、苺大福になっていたりと、あまおうだらけのお土産コーナーはまさに天国。あまおうの無限の可能性が伝わってくる。
つまり何が言いたいかというと、あまおうは最高ということだ!
そんな、マイフェイバリット苺、あまおうに転生していたら、俺だって喜んださ。
ヒャッホーイって叫んで狂喜乱舞していただろう。
けど、現実は残酷だ。
さっき、あまおうは『甘い』、『丸い』、『大きい』、『うまい』の四つの頭文字をとって名付けられたと言ったけど、それに比べて俺は、同じ苺でも全然違うんだ。
今の俺の体は、一本のツタとそこに生っている五つの実で構成されているが、実の形は歪で小さい。あまおうに求められる『丸い』と『大きい』が、全然なっちゃいない。
残る『甘い』と『うまい』だが、残念ながらこれもダメだ。苺になったことで、新たな感覚に目覚めたのか、自らに生った苺の実の味が、なんとなくわかるんだ。
そんな、我が苺の味はというと、甘みなんてほとんどなくて、まずい。
俺自身が食べた訳じゃないが、そもそもこんなの食べようって気にもなれない。
誰かに手入れされているわけでもなく、山の中にポツンと生息しているだけの苺に、そんなもの求めてもムダなのか?
前世ではしがない会社員だったけど、転生して苺になっても、パッとしないのは変わらないようだ。トホホ……
すっかり気持ちが沈んでしまったが、得てしてそういう時に、悪いことはやってくるのかもしれない。
急に、近くの茂みがガサガサと音を立て、一頭の狼が現れた。
いや、ここは異世界だから、正確には狼型のモンスターか?
いや、この際そんな疑問はどうでもいい。
問題なのは、その狼がヨダレを垂らしながら、ギラギラした目をこっちに向けてきていることだ。
「ガルルルル!」
まさか、俺を食う気か?
違うよな? 狼は肉食獣だよな? ベジタリアンに目覚めたりしないよな?
不安になってる間にも、狼はゆっくりとこちらに近づいてくる。
とりあえず、ここは逃げた方がいいかも。なんて思ったけど、今の俺は苺だ。狼よりも速く走るどころか、そもそも移動なんてできるわけがない。
そうしているうちに、俺のそばまでやってきた狼は、そのまま苺の実にかじりついてきた。
「ウォーーーーン!」
てめー、やっぱり食うんかい! 肉食獣の誇りはどこいった!
てゆーか、俺を食っても絶対まずいぞ! 食えりゃなんでもいいのか! そんなに腹が減ってるのか!
心の中で叫んでも、狼の暴食は止まらず、二個目の苺を食われる。
幸い、今の俺は苺に転生したといっても、正確には苺が生ってるツタの方が本体らしい。二個目の実を食われてもまだ無事だ。だがこの狼の凶暴っぷりを見ると実を全部食われた後にツタまで引きちぎられかねない。
そうなったら一巻の終わりだ。
このまま、早くも苺としての一生を終えるのか!?
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