第9話 最後の選択
朝の陽光がカーテンの隙間から差し込み、可憐のアパートを優しく照らしていた。
俺はベッドの上で目を覚まし、隣で穏やかな寝息を立てる可憐の姿を見つめる。
昨夜の余韻がまだ体に残っていて、胸が温かくなる。
彼女の金髪が枕に広がり、素顔が穏やかで、いつもお店で見ていた表情とは違う。
自然で、ただの女の子みたいだ。
俺はそっと起き上がり、キッチンでコーヒーを淹れる。
豆の香りが部屋に広がる中、昨日の社内女子たちのLINEが頭をよぎる。
清香の「ちゃんと話そうよ」、小野坂の「また行きたい」、瀬川先輩の「私も本気だから」。
みんなの本気が、重くのしかかる。
可憐が目を覚まして、リビングに来た。
彼女は俺のTシャツを借りて着ていて、袖が長くて可愛らしい。
朝食のトーストを頰張りながら、彼女は笑う。
「康太さん、私の寝顔見てたでしょ? 恥ずかしいなあ」
俺はコーヒーカップを握りしめ、言葉を探す。昨夜のことが、ただの流れじゃなかった。
彼女の涙、抱きしめた感触、互いの名前を呼ぶ声。
あれは本物だ。
社内女子たちも本気みたいだけど、俺の心は今、可憐に向いている。
なぜか?
それは、彼女が俺の「いい人止まり」の壁を初めて越えてくれたからだ。
お店という割り切った関係から始まったのに、彼女は俺の話を覚えていて、笑ってくれて、安心させてくれた。
清香のからかいや小野坂の天然、瀬川先輩の大人っぽさも魅力的だけど、可憐は俺の弱さをそのまま受け止めてくれる。
彼女と一緒にいると、初めて「自分らしくいられる」と思った。
「可憐……俺、可憐と付き合いたい」
突然の言葉に、彼女はフォークを止める。
俺は続ける。
「風俗で出会ったって、関係ない。君は俺にとって、特別だ。会社の子たちもいい人たちだけど、君みたいに心が落ち着く人はいない。高校の頃から、いつもフラれて、いい人だけど好きになれないって言われてきた。君はそれを越えてくれた。俺、君が好きだ」
可憐の目が少し曇る。
彼女はカップを置いて、静かに言う。
「……ごめん、康太さん。今は、付き合えない」
俺の胸がずきんと痛む。
え? 昨夜のことは? 彼女の涙は? 俺は慌てて言葉を重ねる。
「なんで? 俺じゃダメか? やっぱり…いい人止まりで、好きになれないってことか」
頭がぐるぐる回る。
過去のフラれ体験がフラッシュバックする。あかりの笑顔、みゆきの丁寧な拒絶。結局、俺は変わってなかったのか。
社内女子たちも本気じゃなくて、ただの遊び?
可憐の視線が優しく、彼女は俺の手を握る。
「違うよ、康太さん。私も付き合いたいって思ってる。君の優しさ、毎週来てくれる律儀さ、話してくれる日常……全部好き。でも、それは会社の子たちとちゃんと話してからにしよう。君のスマホ、昨日鳴ってたよね? 彼女たちの気持ち、無視しちゃダメだよ。私だって、風俗の過去があるけど、君は受け止めてくれた。彼女たちもきっと、同じように本気なんだと思う。だから、ちゃんと向き合って、みんなの気持ちを聞いてから、私を選んでほしい」
彼女の言葉が、心に染みる。
凹んでいた俺の胸が、少し軽くなる。
可憐は微笑んで、続ける。
「私、待ってるよ。康太さんがみんなと話して、戻ってきてくれるの」
俺は頷き、彼女を抱きしめる。
彼女の髪の匂いが、安心感を与える。
外の陽光が強くなり、部屋を明るく照らす。
俺はスマホを取り、社内女子たちのLINEに返信を打つ決意をする。
「みんなと話そう」
これで、ようやく前へ進める気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。