第5話 インターン

 月曜の朝、会社はいつもより少し活気づいていた。


 人事部で来年度に向けてインターン生の受け入れが始まる日で、部長の佐藤さんが数名の大学生を連れてオフィスを回っていた。


 俺はデスクで資料を整理しながら、ちらりと様子をうかがう。


 インターン生たちは緊張した面持ちで、部長の説明に頷いている。


 その中に、一人だけ少し目立つ子がいた。

あれが噂の佐藤部長の娘、佐藤葵…。


 部長が「今日は娘も一緒にインターンとして参加するんで、皆さん、よろしくね」と紹介した時、周りが少しざわついた。


 そうして現れた彼女は黒髪をストレートに伸ばし、シンプルなブラウスとスカート姿で、部長の娘らしく、礼儀正しく頭を下げていた。


 午前中は、インターン生たちに社内のルールを説明したり、簡単なタスクを割り振ったり。


 俺は中心となって色々と説明を行なっていた。


 部長の娘さんは席でノートを取っていたが、時折俺の方をちらりと見て、嫌な笑みを浮かべてきた。


 視線を感じて、俺は少し居心地が悪さを感じていた。


 それから一人でご飯を食べながら、週末の可憐の告白について考えていた。


 彼女のメモは財布に入れたままであった。

まさか…そんな風に思われてるなんて…。


 会社の子たちの行動も気になって、なんだかみんなが俺を監視してるような錯覚さえ覚えていた。


 午後になり、他のインターン生たちが部長に連れられて会議室へ移動した。


 俺は残って資料のチェックを続けていると、部長の娘さんが席に残っているのに気づいた。


 彼女は周りを見回し、誰もいなくなったのを確認してから、俺のデスクに近づいてきた。

そして、隣の椅子を引いて座り、にこっと笑う。


「お疲れさまです、山本さん。お母さんから話、聞いてますよ? 風俗通いしてる山本さんですよねw」


 突然の言葉に、俺はペンを落としそうになった。

え? と声が出ない。


 彼女ははくすくす笑いながら、肘をデスクについて身を寄せてくる。


 彼女の話し方は、見た目の清楚さと裏腹に、軽快で少し砕けていた。

語尾が伸びる感じで、まるで友達と雑談するみたい。


「超びっくりしたんですけど。お母さん、社内の噂とか意外に好きなタイプらしくてー、私に『この前聞いたんだけど、山本さんはいい人だけど風俗に通ってるらしいのよね。別に悪いことじゃないからあれだけど…結構意外と言うか、そんな風に見えなくて』って、写真見してもらったらマジで?ってなって!wそんな趣味ある人に見えないのにw」


 俺は慌てて周りを見回す。

誰もいないけど、声が漏れそうで怖い。


 …どうして部長がそんな話を娘に?

いや、それより、噂が部長にまで広がってるのか。

俺の顔が熱くなるのを感じて、言葉を探す。


「いや、あの…それは…ただの噂というか…」

「えー、嘘つかないでくださいよー。清香さんに直接確認したんで間違いないはずですけど?

私、この会社の人と結構仲良いんですよねー。てか、山本さん、風俗で毎週同じ子指名してるって本当ですか?wめっちゃ一途で可愛いんですけど!w」


 目を細めてからかうように言う。

彼女の指がデスクをトントン叩くリズムが、俺の心拍を速める。


 俺は喉が乾くのを感じて、空になったコップで水を飲むふりをする。


 こんな噂が広がってるなんて最悪だ。


「…まあ、プライベートのことだから、深入りしないでよ…」


 俺がそう返すと、肩をすくめて笑う。


「はーい、了解です!でも、山本さんみたいな人がそんなことしてるって、なんかギャップ萌えかも。普通に優しいし、指導も丁寧だし。風俗より、社内の子狙った方がいいんじゃないですか?wあっ、私とか、どうですか?めっちゃエロいですよ?w」とか言ってくる。


 俺はドキッとして、視線を逸らす。

部長の娘にこんなこと言われるなんて、絶対何かある。


「冗談ですよー。でも、本当に意外ですねー。山本さん、彼女いたことないんですよねー?いやー、そりゃ、風俗ハマっちゃいますよねー。『あの人、誠実だから心配ないわ』って信頼度高いみたいなんで安心してください!でも、私的にはもっと知りたくなっちゃうなあwあっ、連絡先交換してくださいよ!」


 断ったら…どうなるのか。

彼女の提案に、俺は曖昧に頷くしかなかった。


 全てを終えると満足げに席に戻る彼女。


 俺の頭は混乱したままだった。

社内の空気が、ますます読めなくなってきた。


 午後の仕事が再開しても、視線を感じるたび、背中がざわつくのだった。

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