第3話 ド直球で元AV女優な天然後輩

 先輩との出張が終わり、翌日の出勤日。

俺はオフィスに戻ってすぐ、今回の大学訪問の資料をまとめていた。


 キャリアセンターでの教授との会話内容をメモから転記し、応募者の傾向を分析。

人事部の仕事は細かいけど、こういうのは意外と好きだった。


 すると、とある話が耳に入ってくる。


「聞いたか?営業部のやつ…ほら、問題児いたろ?あいつ、ハニトラに仕掛けられてクビになったらしいぞ?」

「マジ!?」

「そーそー。女の方から仕掛けてきたのに無理やり襲われたって言ってクビになったとか…」

「こえー…まじかよ」


 そして、デスクのPCを叩いていると、ふと視界にコーヒーカップが入ってきた。


「お疲れ様です、先輩! 出張、どうでしたか?」

【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/822139845959587867


 声の主は、今年転属してきたばかりの3年目の小野坂麗美。


 明るい笑顔でカップを差し出してくる。

彼女は社内でも目立つタイプで、茶髪のボブカットが可愛らしく、スタイルも良く、人気な女の子であった。


「おう、サンキュー。出張はまあ、いつも通りだよ。仕事は大丈夫か?」

「はい! バッチグーです!

「なんかリアクション古くないか?」


 小野坂はまぁ、何というかかなり天然というか、明るくていい子ではあるが、空気を読むのが苦手な女の子だった。


 入社当時から社内のムードメーカーだけど、時々周りをヒヤヒヤさせる。


 転属してきてからも、ミーティングで唐突に「これ、超かわいいですよね!」とか言い出して、部長を困らせたりしていた。


「折角だし、今日お昼どっかに食べに行かないか? 色々聞きたいし」

「いいんですか!! 先輩の奢りですか!!」


 目を輝かせて即答する。

相変わらずストレートだな。


「お、おう。そりゃ俺から誘ったからな」

「やったー! 太っ腹〜!」


 ぴょんぴょんと跳ねる姿が小学生みたいで、思わず笑ってしまう。


「とりあえず、昼まで頑張れよー」

「イエッサー!」


 そうして、ルンルンで自分の席に戻る小野坂。

相変わらず、元気だなーと思いながら、俺も昼まで仕事に集中するのであった。



 ◇


 昼休みになり、小野坂と一緒に社外に出る。少し歩いて人気のトンカツ屋を選んだ。


 店内は混んでいて、2人席に座る。

メニューを眺めながら、軽く雑談を始める。


「転属してから、どう? 人事の仕事、営業から変わって大変じゃないか?」

「全然! むしろ楽しいです。先輩みたいに優しい人多いですし!あ、注文は何にします? 私、ロースカツ定食!」

「俺はヒレカツかな。じゃあ、店員さん呼ぼうか」


 そう言って手を挙げようとした矢先、小野坂が唐突に口を開いた。


「そういえば先輩、風俗通いしてるんですか?」


 普通のトーンで、そんなことを聞いてきたを俺は一瞬固まった。

周りのテーブルに座ってる女性客たちが、チラチラとこっちを見て、冷ややかな目を向けてくるのがわかる。


「おまっ…!!// しー! しー!」


 慌てて声を抑え、手で制止する。


「えー?別にいいじゃないですかー?私は人の趣味を否定するのは良くないと思ってるんですけど」

「と、とりあえず静かに! ここ、公共の場だぞ!」

「はーい。あっ、でも安心してください。私、結構理解ある方なので。なんて言ったって、大学時代にAV女優やってたんで!」


 今度は周りの男性客たちの視線が一気に集まる。

俺は顔を赤らめて、テーブルに突っ伏したくなった。


「ちょっ!!// 色々びっくりだけど! とりあえずその話はここではやめような!//」

「何でですか?別に隠してないのでいいですけど?」


 ポカーンとした表情を浮かべる小野坂。

この子は本当に……空気読めなすぎる。


 まだ注文前だったのが幸いだった。

俺は急いで立ち上がり、小野坂の手を引いて店を出た。


「えー! このトンカツ屋が良かったのに!!」

「無理!個室のある店に移動だ!話すなら、せめて人目がないところで!」


 小野坂は不満げに頰を膨らませながらも、ついてくる。


 近くの個室のあるお店に移動して、個室席を確保。

ようやく落ち着いて座り直す。


「さて、改めて注文するか。俺は…カツ丼でいいや」

「私もカツ丼!」


 そうして、注文を終えて、カツ丼が届いてから話を始める。


「…それで…?誰に聞いたんだよ?」

「いえ、この前休憩室でご飯食べてる時、胡桃咲先輩と話しているのが聞こえまして」


 …よく考えたら普通のテンションであいつ話してたもんなー。

あれ聞こえてたのかよ…。


「で?本当なんですか?」

「…まぁ…そうだな」

「ふーん。私はAVの経験あるので、そこらへん意外と詳しいですよ?」

「…それ、あんまり周りに言わない方がいいぞ」

「そうなんですか?分かりました!それでー、どれくらい通ってるんですか?」

「この話はもうやめないか…」

「えー!気になるんですもん!」

「そういう小野坂は何で…AV…に出たんだ」

「え?普通に稼げるからです!と言ってもでたのは2作品ですけどね!今度私の作品一緒にみます?結構いい演技だと思うんですよねー」


 そんなカメラ趣味の人みたいなテンションでよくそんなこと言えるな…。

てか、会社の後輩が出演しているAVを本人と一緒に見るとかどんなプレイだよ。


「…それ、気まずすぎるだろ」

「でも、エッチなことは好きなんですよね?」

「…」


 めちゃくちゃ正論をつかれた。

風俗通いしてるやつが何言ってんだって話だよな…。


 俺はため息をつきながら、カツ丼を食べ始める。

小野坂は目をキラキラさせて身を乗り出してくる。


「でも、意外でした!先輩はそういうの興味ない人なんだろうなーって思ってたんでちょっと嬉しかったです!」

「何で小野坂が嬉しいんだよ」

「それは…まぁ…なんででしょうね?」と、珍しくぼやかす。


「そういう小野坂はどうなんだ?彼氏とかいないのか?」

「そーですねー。今はいませんね。一応…好きな人は…居ますけど…」と、モジモジする。


 もしかして、うちの会社のやつなのか。


「別に言いふらす趣味はないけどな」

「先輩こそどうなんですか!上にも下にも美人な人に囲まれてるわけじゃないですか!風俗も悪くはないと思いますけど、好きな人とやりまくった方が気持ちいいですよ!」

「…俺、彼女居たことないし」

「…え?…それ…マジですか?」と、ドン引きな顔をされる。


 そりゃ30手前で素人童貞とか…引くよなー…。


「ふーん…そうなんだー…ふーん?」と、今度は少し嬉しそうな顔をする。


 もしかして…こいつもハニトラを仕掛けようとしてるわけじゃないよな…?

俺…裏ではめちゃくちゃ嫌われてたりするんかな…。


 女子社会じゃ、表で仲良くして裏では叩き合いとか聞くし…どどどど…どうしよー…。と、彼女たちの真意など知らず冷や汗をかく俺であった。

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