第3話 動きだす
一緒に歩き始めた道は、桜の花びらが舞う街路だった。
恭平の隣を歩くのは、子供の頃以来。
心臓の音がうるさくて、言葉が出てこない。
ぽつぽつと話し始めたのは、結局あのチョコの件からだった。
「恭平……あのバレンタインのチョコ、本当に下駄箱に入ってなかったの?」
声が少し震えてしまった。
恭平は考えて、首を横に振る。
「ああ、入ってなかったよ。少なくとも、俺は気づかなかった。もしかして、他の誰かが取ったのかもな」
他の誰か……。
その言葉で、ふと思い浮かんだ。
小学校のあの時期、私はある男子に付きまとわれていた。
いつも後ろをついてきて、勝手に物を取ったり、からかったりする子。
名前はなんだっけ?
途中で転校した子だったけど、クラスで問題児だった。
あのチョコ、もしその子が下駄箱を漁って取ったとしたら……。
納得がいった。
「もしかしたら、あの子かも……。あの頃、変な男子に付きまとわれてたから…」
そう言ったら、恭平は少し驚いた顔をした。でも、すぐに頷いて。
「そうか…。そういや、ちょっとした問題になってたもんな」
「…もし…チョコもらってたらどうしてた?」
「そりゃ…付き合ってたんじゃないか?」
「…そう…なんだ」
そんな素直な言葉に、胸が熱くなった。
でも、素直になれない私は、つい煽るようなことを言ってしまう。
「ふん、まあ、昔の私なんかより、今の私は全然レベルが違うし?今の恭平なんか、釣り合わないよね」
本当は嬉しいのに、言葉が勝手に尖ってしまう。
自分でも嫌になる。
恭平は少し苦笑して、同調する。
「そうだな。俺みたいな地味な奴じゃ、確かに釣り合わないよな。穂波は好きなやつとか居ないの?」
自己評価が低い彼の言葉に、ちょっとイラッとした。
もっと自信持てばいいのに。
でも、そんなやり取りをしている最中、角を曲がったところで、誰かがいた。
「あれ? 二人……何してんの?」
声をかけてきたのは、花塚美琴という子だった。
陸上部のユニフォーム姿で、ジョギング中らしい。
汗を拭きながら、好奇心たっぷりの目で私たちを見る。
そういや、恭平の隣の席の女の子だっけ?
ボーイッシュな彼女を見ると、昔の自分を思い出す。
少し、複雑な気持ちになった。
◇
穂波と一緒に帰る道は、意外と居心地が良かった。
すると、美琴に遭遇した。
「ん?お二人、もしかして付き合ってるの!?」
「いや、たまたま一緒に帰ってるだけだよ。美琴はジョギングか」
美琴は頷いて、穂波に話しかける。
「へえ、神崎さんだよね。よろしくね!」
穂波は素っ気なく返す。
「まぁ、どうも」
美琴はそんな穂波を見て、くすくす笑う。
俺たちは三人で少し話しながら歩いて、別れた。
美琴はジョギングを再開し、俺と穂波は家に向かった。
◇
翌日の学校。
ホームルームが終わると、穂波が俺の席に近づいてきた。
「ね、今日とか暇…?暇ならその…家に遊びに行きたいんだけど」
俺は驚きながら、笑った。
「いや、俺はいいけど…。いいの?あの人たちは」と、一軍たちに目を向ける。
穂波は頷いて、隣の美琴がそれを見てにやにやする。
すると、クラスで少しずつ、二人の関係が話題になり始めた。
美琴は休み時間に、俺に耳打ちした。
「恭平、チャンスだよ。あの子、結構本気みたい」
俺の青春は、ようやく動き出したみたいだ。バイトの合間に、穂波のことを考える時間が増えた。
過去の誤解が解け、新しい絆が紡がれていく。
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