左目で見えるのは、黴の浮いた石壁と、自分の右手だけだ。
すえた匂いのする石牢の気配。これがこの作品の全てだと思う。
普段テンプレ系の作品にはほとんど手を付けない。それでも気づけば読んでいた。理由は明快で、この作者の筆致が静かで読みやすく、それでいて確かな力を持っているからだ。感情を直接叫ばせない。行動と沈黙で見せる。その一貫した抑制が、物語の重さをむしろ増幅させている。
構成も意図的だ。手足を失い石牢に囚われた少年の姿を見せておいて、その後に続く温かな家族との記憶、友情、成長の日々を読ませる。暖かな記憶は、現実をより凄惨なものにしていく。読者はずっと胸が痛いまま、それでも読むのをやめられない。
彼は失敗したという。だが、そうだろうか。
どれほど過酷な経験であろうとも、彼はその幼い手で、できうる限りの選択を選び取った。一番厳しく、一番辛い選択を。
それは、この上もなく、美しく尊い。