怪異を祓うのではなく、想いをほどく物語

 夜のコンビニ駐車場で缶コーヒーを飲んでいたら、隣に神様が座ってきても、この作品の街なら「まあ、ありえるか」と思ってしまう。不思議なのに生活感があるんです。『いなり広告社と街の不思議』は、怪異を倒す物語というより、“人の心の置き忘れ物”を拾い集める物語なのが印象的でした。

 焼き味噌を愛する貧乏神アン子の妙な親近感も、透子たちの少し距離を置いた優しさも絶妙で、読んでいるうちに「この街に住みたい」と思わされます。特に、怪異を単純な悪にしない視点がすごく好きでした。怖さの奥に、孤独や未練や滑稽さがちゃんと息をしているんですよね。

 笑える場面でふっと切なくなり、切ない場面でなぜか温かい。読後、味噌の匂いが恋しくなるような、静かに心へ残る作品です。

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