第9話 振り返り&打ち合わせ

怒涛のコラボラッシュを駆け抜け、静かな個人配信の時間を噛み締めていた。


『こんマロ。星乃マヒロです! 今日はね、ここ最近の「お祭り」みたいなコラボ配信を、みんなと一緒に振り返っていきたいと思います』


 久しぶりのソロ配信。変な緊張感もなく、リスナーの流れるようなコメントが心地いい。


『まずは、リリアさん! 初めてのコラボでガチガチだった私を、あんなに優しく引っ張ってくれて……本当に王子様みたいでカッコよかったなぁ。

 ミコ先輩は、ゲーム対決ですごく盛り上がったよね。配信外でも「緊張してない?」って気遣ってくれて、実はすごく優しい先輩なんです。

 こももちゃんは、もう……元気いっぱい! 苗字が一緒だからって「お姉ちゃん」って呼んでくれて、本当の妹ができたみたいで可愛かったし……。

 最後、セレナさんは……。……あはは、あの膝枕は、正直、最高に癒やされました。ありがとうございます、としか言えません……っ』


 思い出すだけで顔が熱くなる場面ばかりだ。視聴者たちも、俺の必死な振り返りに大盛り上がりだった。


・マヒロちゃん、振り返りながら顔赤くなってない?

・全員に愛されすぎてて草。もはや伝説の新人でしょ

・セレナさんの時だけ語彙力死んでて笑う。よっぽど気持ちよかったんだな


『これからは少し落ち着いて、個人配信も増やしていきたいと思ってるから、みんな応援よろしくね!じゃ次はゲームでもやろ! 』


 この時の俺はまだ知らなかった。

 視聴者一覧の最上部に、「あの四人」の公式アカウントが並んでいたことに。



VTuberになって数ヶ月。

 当初は鏡を見るたびに絶叫していたこの体にも、最近はようやく慣れてきた。事務所に行く以外の外出もできるようになったし、何より大きな変化は、高校を中退したことだ。

 両親に「VTuberとして生きていきたい」と打ち明けた時、反対されるかと思いきや、「あんたが自由に笑って過ごせるなら、それが一番だよ」と、あっさり背中を押された。


 そしてある日の配信後。氷室さんの呼び出しに、俺は嫌な……いや、甘すぎる予感を抱いた。


「マヒロさん。察しの通り、コラボです。……それも、例の四人が揃い踏みする特別番組です」


 氷室さんに連れられ、会議室の重い扉を開ける。

 そこには、俺の「初めて」をことごとく奪っていった四人の姿があった。


「あ、マヒロ。やっと来た……」

「遅いわよ! 新人のくせに先輩を待たせるなんて、いい度胸ね!」

「あーっ! お姉ちゃん! こっちこっちー!」

「ふふ、今日もいい声ね、マヒロちゃん」


 挨拶もそこそこに、一気に距離を詰められる。

 俺が席に着くやいなや、左隣にはリリアさんが陣取り、右隣からはミコ先輩が鋭い視線を送ってくる。さらに、こももちゃんが当然のように俺の膝の上に登り、背後からはセレナさんが首筋に顔を寄せて抱きついてきた。


「あ、あの……みなさん? 何してるんですか、これ打ち合わせですよね……?」


 尋ねても、誰も離れてくれない。リリアさんは俺の髪を弄り、セレナさんの吐息が耳をくすぐる。

 ……ダメだ。抵抗しても無駄だ。俺は思考を放棄することにした。


「では……全員揃ったので進めますね」


 氷室さんが呆れたような視線を向けながら、ホワイトボードを叩いた。


「今回の五人コラボ(四人+マヒロさん)、メイン企画の案がある方は?」


「みんなで、対戦ゲームをしましょう」


 最初に口を開いたのはミコ先輩だった。


「ニ対ニのチーム戦よ。……負けたチームは、勝ったチームの言うことを一つ、何でも聞く。どうかしら?」


(それ、ただの罰ゲーム目的じゃ……!)

 もっと平和な、すごろくやパーティーゲームを提案しようと口を開きかけたが――。


「異論なし。私がマヒロと同じチームになる」

「あーっ、リリア先輩ずるい! こももがお姉ちゃんと一緒がいい!」

「いいわね。勝った方が、マヒロちゃんとお出かけができる……そういうルールにしましょうか」


 俺の意見は、完全にスルー。

 四人の視線が火花を散らし、会議室の温度が数度上がった気がした。


「……では、ゲーム対決。ペアマッチということでよろしいですね?」


「「「「はい!!」」」」


 こうして、俺の意思とは無関係に、俺という「景品」を賭けた戦いの幕が切って落とされた。

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