第3話 青年は上を目指した

 俺は斯詠かくよむ書浪かきろう。カクヨムで上位0.2%の作品を世に出した才能あるクリエーターだ。

 俺は自分の作者ページを開き、★1000の数字をもう一度だけ確認した。指が勝手にスクロールして、通知欄まで降りてしまった。


 『参勤交代の交通費を計算するだけの人生(以下略)』を完結させてから一か月、ずっと気分が良かった。

 出社前に通知欄を開き、★の履歴を眺めてからスマホをポケットにしまう。それを一か月続けた。


 だけどあるとき、思った。

 通勤電車の揺れの中で、俺はリワードの画面を開いて指を止めた。


 この小説のPVは一日2000ほど。

 PVの欄をスクロールして、俺はメモ帳に『2000』と打ち込んだ。

 連載していた三か月の間、リワードは月4000円程度だった。


 上位0.2%なのに、なんでこれだけしかリワードがもらえないんだろうか。

 スマホを握り直して、俺は小さく舌打ちした。


 もちろん、4000円が軽いお金ではないことは分かっている。

 読者の協力のおかげだ。

 そもそもこれは趣味だ。

 お金をもらえるだけでありがたい。


 そう自分に言い聞かせながら、カクヨムのサポーターズパスのプラン一覧を開いた。

 一番いいデラックスプランの金額を見て、親指でなぞった。

 4000円あれば、一番いいプランに課金できる。お気に入りの作家にギフトも送れる。それで十分じゃないか。


「でも、4000円かぁ……」


 それでも、執筆にかけた時間が頭をよぎる。

 同期からの飲み会を断ってまで、毎日投稿を続けた。

 断った飲み会のLINEが、通知の奥から出てきた気がした。


 俺は電卓アプリを開いて、『4000÷(90日×3時間)』と打ち込んだ。

 表示された数字を見て、俺は目を細めた。

 時給換算すると数十円。少しだけやるせなくなった。


 さらに俺にはショックなことがあった。

 完結直後は、普段よりPVが高かった。

 だから正直、しばらくは余韻で稼げると思っていた。


 ある夜、「編集」画面でPVをふと見た俺は、二度見した。


「えっ……今日のPVは500? こんなに減るのか」


 完結から一か月、PVは一日500まで落ちてしまった。

 スマホの画面を伏せ、俺は椅子をきしませた。

 このままだと、毎月もらえるリワードは1000円程度。


 換金ページを開く。

 換金ボタンは薄い灰色のままだった。

 最低換金額に届かない。


 俺は番外編として、完結済みの『参勤人生』にいくつかのサブエピソードを追加してみた。

 メモ帳に打ったタイトルをコピペして、投稿画面に貼り付ける。


 『番外編 藩士の飲み代は経費ですか?』


 公開ボタンの上で指が止まった。

 少しだけ迷って、押した。


 この話はなかなか好評だった。

 投稿して数日はPVがつく。

 通知が鳴って、コメントがいくつか増えていた。俺は反射で返信を打った。

 コメントももらえてモチベーションにもなる。


 番外編を投稿した日のPVは4000まで伸びた。

 4000の数字をスクショして、俺はニヤけた。

 でも数日で元の数値に戻っていく。

 三日後に見返して、スクショがむなしくなった。


 新しいヒット作を作らないといけない。

 俺はスマホを握り直して、息を吸った。


 当たり前のように見ていた週間総合ランクに目を向ける。

 ランキングのタブを開き、俺はスクロールする指を止めた。


 週間総合ランクには、★3000、★10000の作品まである。

 ★10000。俺の小説とは桁が一つ違う数字を見て、思わず笑ってしまった。

 総合ランキング。新作はここに載せたい。


 その画面を見つめたまま、俺は息を吐いた。

 ここに載せるにはどうすればいいのだろう。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 さて、メモ帳パンダです。

 こんにちは。最近、左足が痛くて病院に行ったら、痛風だと診断されました。


 斯詠かくよむくんの現状について、第三者の視点で見ていきます。


 > この小説のPVは一日2000ほど。

 > 連載していた三か月の間、リワードは月4000円程度だった。


 結論から言うと、★1000だとそんなもんです。

 結構誤解されている人が多いのですが、PVと★は直結しません。


 僕の連載中の二つの作品、それぞれ★1000と★2000だったとき、PVの差が10倍になることもあります。


 特に完結ブーストで★1000に行った『滑り込み★1000』と勝手に呼んでいる作品はPVが低いです。

 本来の実力的には★1000レベルではないので当然ですね。


 さて、2026年2月現在カクヨムでは、1PVあたりの単価は目安で0.05円前後です。

 一日2000PVだと、毎日100円程度。

 これは一話ごとの長さにも左右されます。

 まぁ、斯詠かくよむの小説の長さは標準程度って感じですね。


 > 上位0.2%なのに、なんでこれだけしかリワードがもらえないんだろうか。


 それがカクヨムです。

 僕くらいのヒット作を出していると、確定申告が必要な年間20万の雑所得なんて軽々と超えます。

 この0.2%、その中で凄い格差があるのです。

 その辺については次の話あたりで触れようと思ってます。


 > もちろん、4000円が軽いお金ではないことは分かっている。

 > そもそもこれは趣味だ。

 > お金をもらえるだけでありがたい。


 綺麗事です。アマチュアならそれでいいでしょう。

 だが、プロを目指すなら桁が足りません。

 この戦場ではPVが全てです。作品は読まれるためにあります。


 > 俺は番外編として、完結済みの『参勤人生』にいくつかのサブエピソードを追加してみた。


 これはとても有効なやり方です。

 完結済みの作品に番外編を投稿すると、数日の間PVがとても増えます。

 読者は新着通知を見て『あなた』の作品を思い出してくれるのです。

 懐かしいなぁと思って読み返してくれます。

 でも、やりすぎに注意ですよ。完結している作品なんですからね。


 > コメントももらえてモチベーションにもなる。


 実はコメントがつき始めるというのは良い兆候です。

 読者はドキドキしながらコメントしています。


 『無視されないかな』『糞コメだと怒られないかな』


 それは斯詠かくよむくんと、読者の間に信頼関係ができた証拠だと思います。

 コメントしてくれる読者を大事にしてください。


 といいつつ、私メモ帳パンダは来るコメントが多すぎるので返信してません。だってキリがないもん。すみません。


 > 週間総合ランクには、★3000、★10000の作品まである。


 自分の作品と同じ評価システムで評価されているはずなのに、とんでもない星の数の作品がありますよね。

 上を見だすとキリがないと、よく言われます。

 でも、一度、頂上の景色見てみたくないですか?

 斯詠かくよむくんと一緒に、『あなた』も頂上を見てみませんか?


 > ここに載せるにはどうすればいいのだろう。


 斯詠かくよむくんは、現状で満足していれば幸せだったと思います。

 だけど、彼は目指してしまったのです。

 総合ランキング――『太陽』を。


 ギリシャ神話のイカロスは太陽に憧れて、空を目指します。

 太陽に近づきすぎて、彼は蝋の翼を溶かしてしまい墜落して、悲惨な最後を遂げることになります。


 斯詠かくよむくん、彼の背中にある翼は本物でしょうか?太陽の熱に耐えられるのでしょうか?


 さて、始めましょう。

 この小説の本題。

 カクヨム、最大の苦行にして最大の娯楽。

 ――ランクバトルを。

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