ハンザキ様の花嫁

ハル

第一話 最後の食事

 目が覚めてしまった。


 朝が来てしまった。


 二度と目覚めなければよいと、永遠に夜がつづけばよいと、あれほど願っていたのに――。


 それでも、その願いが叶わなかった以上、一日を始めないわけにはいかない。

 瑞穂がのろのろと身を起こすと、


「……おはよう、瑞穂」

「……おはよう」


 母の時雨と父の穂高ほだかが声をかけてきた。二人ともいつもと変わらぬふうを装ってはいるが、表情は硬いし声も震えている。


「……おはよう、父さん、母さん」


 答える自分の声も震えていたし、表情が強張っているのもわかっていた。


「おはよー?」


 隣で妹のみぞれの声がした。そのあどけない声も、まだ眠たげな表情も、目をこするしぐさもいつもと変わらない。少しだけ救われた気分になって、みぞれの頭を撫でて「おはよう」と挨拶を返し、手を取って囲炉裏のそばまで連れていった。


 朝餉は、米と小豆の交じった麦飯に、ぜんまいわらびの味噌汁だ。この家でとる最後の食事だから、家族四人でとる最後の食事だから、両親は精一杯豪勢なものを用意してくれたのだろう。


 みぞれは無邪気においしいおいしいと大喜びしていたが、瑞穂は正直なところ味がよくわからなかった。それが悲しくて、悔しくて、申し訳なくてたまらなかった。せめて両親に気取られぬようにしようと、口角を上げ、ときどきさも感動したように頷きながら箸を進める。


 朝餉が終わると、瑞穂はみぞれを抱きしめてから、


「いい子で……ううん、達者で過ごすんだよ」


 ふしぎそうな顔をしているみぞれに言った。


「おにーちゃん、どっかいくの? どこいくの? みぞれもつれてって!」


 みぞれは瑞穂の着物を摑んでせがんだが、


「ごめんよ……みぞれは連れていけないんだ。母さんとお留守番していておくれ」


 瑞穂はぽんぽんとみぞれの頭を叩き、ぐっと涙を呑んで身を翻した。


「瑞穂……!」


 こんどは、時雨が耐えかねたように瑞穂を抱きしめる。こらえていた瑞穂の涙がとうとうあふれ出した。時雨もまた泣いており、うなじが涙で濡れるのを感じる。


 やがて、時雨は鼻を啜りながらもそっと瑞穂を離し、


「母さんも……達者で」


 瑞穂はどうにかことばを絞り出して穂高に目をやった。穂高は悲しげに頷いて瑞穂の肩を抱く。二人で表に出て、村のおさの家へ向かった。

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