後編

 ☆


「え、苺和モナ……?」


"欲しいチョコがあるから、売り場行くの付き合って欲しい"。


 そう頼むはずの言葉は、彼女のいない教室にポツリと落ちた。誰に拾われることもなく。

(予鈴、そんなぎりぎりだったか?)


 空振りに終わって、脱力する。


(ま、まあ、いいか。昼休みか放課後、伝えれば)


 思い直した俺だったのに、結局その日、モナと話せる機会はなかった。


 それどころか。

 次の日も、また次の日も。


 バレンタインは近づくのに、モナとふたりで会えない。同じクラスなのに、いつも女子の誰かと一緒にいる!


(えええ、なんで? 俺、避けられるようなことしたかなぁ。違うよな。偶々たまたまだよな)


 このままじゃアニメのチョコ、売り切れてしまうのでは?


 頼み事するのにLINEじゃなんだか悪い気もするし、どうしよう。


 焦燥にかられながら、あっという間に十四日。

 授業が終わって帰り支度をしてると、俺のところにモナが来た。


「えっと……。これ、頼まれたチョコだけど」


 そう言って、背中に隠した袋を出してくる。


「えっ!?」


(待って、なんで? だってあれから、話せてなかったぞ? けど、もしかして)


 さっすがモナ。

 チョコ売り場に俺が好きなアニメチョコがあるって察してくれたとか?


「え? え? ありがとう」


 戸惑いながら袋を受け取る。


「初めてだから上手く作れなかったけど、でも味はちゃんとチョコだから」

「ん?」


 何が?


 袋から出した中身は、想定してたサイズと違うラッピングで。のぞいたチョコも別のモノ


 俺はそれまで高まった期待から、心のままに失言した。


「……これじゃない……」


「───!!」


 この時のモナの顔は、きっと一生忘れられない。


 悲し気に歪んだ眉に、ショックを受けた声で言う。

「ごめ、ん。私、間違えちゃった?」


(???)


 声が震えてる。声だけじゃなく、手も。

「これは引き取るから……」


(?????)


 急変したモナの様子と伸ばして来た手に、俺はようやく、ガツンと気づいた。


「今日ってもしかして、バレンタイン・デー……?」


「そうだよ……? だから私……」


 !!!!!


 バレンタイン!

 家のおやつで、チョコが出る日じゃない。

 親からのチョコじゃなくて世間では!


 好きな相手にチョコを贈る日!!!


 あまりに縁遠くて、そもそもの意味を忘れてた!

 否、傷つくのが怖くて記憶から抹消してた!!!


 だって生まれてこの方、チョコなんて貰ったことなくて!!

 

(もしかしていま、モナのくれたチョコって本来の意味の──)


「今日のことは、忘れて」


 弱弱しい笑顔で、モナが袋を取って駆け出そうとした。


「待っ! 待って、モナ!!」


 俺は慌てて彼女の手を掴む。


「ごめん! 俺、勘違いしてて! バレンタインチョコだって、思ってなかった!」


「──何言ってるの?」


「ああっ、だから、その」


「私のチョコが欲しいって、最初に言ったのトーリじゃん……」


 モナの声が泣いてる。

 あああああ、俺はなんという過ちを犯してしまったんだ!!


「違うんだ、その! 俺はチョコ売り場に行きたかっただけで」


「?」


 不審そうな目で、見返してくる。


(やばい、これ、言い方間違えたら一生口きいて貰えないやつだ)


 心の警報が、けたたましく鳴り響く。


 モナは。


 そばにいるのが当然で。

 でも俺はたぶん今、盛大にやらかした。


 もしこれで、以前みたいに笑って貰えなくなったら?


(そんなのは、絶対に嫌だ──)


「言い直す。モナからのチョコ、すっごい嬉しい」

「!」


「ええと、だからそのチョコ、俺にください」


 ぱっ、とモナの顔に明るさが戻る。


 よし、この路線だ。

 言葉選びを間違えるな。


「……私のチョコ、迷惑じゃない?」

「もちろん!! どんなチョコよりも貰いたい!!」


 ほっとしたように息をつく、そんな彼女が可愛い。

 モナのつむじが見下ろせる。


(いつの間にか、こんなに身長差が出来てたんだな)

 幼稚園の時は、横並びだったのに。


 それに何か、いい香りする。花みたいに、軽やかで柔らかな。


 ほっこりする笑顔で、モナがチョコを返してくれた。

「じゃあ……、はい」

「あ、ありがとう」

 ありがとう、ありがとうモナ! これ永久保存版にするよ!


「でも、何をどう勘違いしたの?」


「え゛っ」


「さっき言ったよね。"勘違いした"って。本当は何を想定してたのか、話してくれる? ね? トーリくん?」


 モナの目が! 笑ってない!


 モナが俺のことを"君づけ"で呼ぶときは、お説教タイムに突入する時だ。

 これは怒っている……!?


「ハイ……。聞イテクダサイ」




 それから俺は、思わせぶりな言い方をしたことをたっぷりとモナに絞られ、下校時彼女は、とんでもない情報をくれた。


「バレンタインチョコって、特設コーナーが撤去されたら、特売品になってワゴンに並ぶよ」

「え? ワゴン?」

「そ。女子とか男子とか気にせず、誰でも買えるってこと」

「!!」

「知らなかったかぁ~。まあトーリくんは、彼女からのチョコより、アニメチョコの方が良いお子様だもんね」

「うっ」

「まあいいか、付き合ってあげるよ」

「! それって」

「チョコ売り場。行きたいんでしょ」

「あ、ハイ」

「んん~? 何かな、その顔。付き合うって、別の意味想像した?」

「や、え、まあ、──うん」

「それ、私がこないだ勘違いヤツだから」

「ハイ。その節はどうも……、すみませんでした」


「だから今度は、ちゃんとトーリの言葉で聞かせて」

「……ハイ。ん?」


「そのシェル型のチョコ、一生懸命作ったから、食べて返事聞かせてね。告白の」



 俺とモナは、ホワイトデー待たずに交際することになったけど、俺から誘うことになったのは当然の流れで。


 つないだモナの手があたたかい。幼稚園の時以来だ。

 この手を離すことのないよう、気をつけなきゃな。


 アニメよりずっと好きだよ、モナ。


 でも、目当てのチョコも買えて良かった!

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チョコを頼んでみた結果! みこと。 @miraca

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