チョコを頼んでみた結果!

みこと。

前編

「っはあああ〜。なんでだよぉお」


 スマホ画面を見終えて、俺は机に突っ伏した。


(推しアニメがチョコになるのはいいんだけど、バレンタイン売り場なんて入れねぇ──)


 バレンタインのチョコ売り場。

 あそこは女子の聖域だ。


 いくら欲しいチョコがあるからって、あの賑わいに飛び込み、行列に並ぶ勇気はない。


(くっ。普通にグッズやコラボ菓子として売ってくれたらいいのに……!!)


 "家族に頼む"、なんて選択肢はない。

 常日頃、勉強そっちのけでアニメやゲームにハマってることを、快く思われてないからだ。うちは通販も許可制だし。


 かくなる上は。


 俺は教室の端に座る苺和モナを、ちらりと見た。

 教室移動に備え、必要な本を取り出してる。


(モナは選択科目、生物だっけ。それでいつもつるんでる女子がいないのか)


 彼女の親友は物理らしく、この教室に残ってる。生物選択者は、生物室に移動するが。


(よし!)


 俺は意を決して、モナの前に立った。

 人影に気づいたモナが、目を上げる。


「あの、さ」


(しまった。こんな時、なんて言えばいい? "チョコ買いたいから一緒に来て"? いや、違うな)

 それだと一人でおつかいにいけない子どもみたいで、恥ずかしい。


 不思議そうに見てくる彼女に気が焦る。

 沈黙はマズイ。とにかく何か、喋らなきゃ。


「バレンタインチョコ、モナに頼みたいんだけど……」


 ☆


(!!!!!!)


 透理トーリの言葉に、耳を疑った。


 チョコを求められた?

 バレンタインの???


 聞き間違いかと思ったけど、透理トーリの首が赤い。

 耳まで火照りながら、目を逸らしてる。


(えっ、えっ、これって──)


 つまりそういう意味だよね?


「う、うん、チョコだね、わかった。じゃ、次の授業、違う教室へやだから」

「あ」


 透理トーリが何か言いかけたけど、私は慌てて席を立った。


 逃げるように教室を出る時、呟く声が耳に届く。

「…………付き合って欲しい」


(うわあああああああああ)


 私はいまきっと、全面真っ赤にだってる!


(なんでこんな時に、こんな場所でそれを言うのよ、透理トーリぃぃぃぃっっっ)


 ずっと待ってた念願の言葉なのに、向き合ってちゃんと聞けなかった!

 自分を罵り、ついでにトーリのことも罵倒しながら、生物室へと急ぐ。


(どうしよう! もうトーリの顔が、まともに見れない!)


 私たちは、幼稚園からの仲だった。


 当時の私は、引っ込み思案。

 別の町から越して来たこともあり、新しい友達がなかなか出来なくて。

 ひとり、いつまでも砂場で貝を探し続けてた時、彼が隣にしゃがみこんだ。


 寂しさを紛らわせてただけなのに、私のことを大の貝好きだと思ったらしい。


 いろんなカタチの貝を見つけては手渡してくれたから、私のポケットは小さな貝でいっぱいに。

 私とトーリは、毎日貝を集め続けた。


 そのうち、彼をきっかけに話しかけてくれる子も増えて。

 幼稚園に馴染めるようになった。


 小さな頃の、私の最初の記憶。


 トーリの優しいところが好きだ。

 その頃から、ずっと好き。


 そりゃあ時々、かっこいい男子に目移りすることはあったけど、でもやっぱりトーリが良くて。片思いのまま小学校を終え、中学になった今も、まだ告白出来てなかった。


 だって彼は、私のことを友達としか思ってなかったから。だから私も関係を崩したくなくて、言えなくて。


 つまりこれは、絶好のチャンス。


(まさかトーリから"チョコ欲しい"と言われるなんて、想像してなかったよ)


 さっき、「付き合って」って言ったよね?

 はっきり聞こえなかったけど、たぶん言ったよね?


 声変わりしたトーリの声は低くて、胸をくすぐる。


(私、逃げちゃった。せっかくトーリが、勇気出してくれたのに)


 両想いの嬉しさと、自分の不甲斐なさを反省しながら、決意する。


(トーリのために、ちゃんとしたチョコを用意する! 本命チョコだもん。やっぱり手づくりかな? 渡しながら"こないだはごめん"って謝ろう。それから──)


 もう一度聞かせて? と、お願いしてもいいかな。


 でもバレンタインまで数日ある。


 私は当日まで、トーリから逃げる選択をした。

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