第3話
毎晩の夜が、俺にとってただの「時間」ではなくなっていた。
部屋の空気が重く、静かすぎるほどに静かで、その静けさの中にダリアさんの足音だけが響く。
3日目の夜。
いつものようにノックがあって、ドアが開く。
ダリアさんはパジャマ姿のまま、ベッドの端に腰を下ろした。
銀髪が部屋の灯りに淡く光り、いつも通りのクールな瞳で俺を見つめる。
「今日も……しようか」
短い言葉。
俺は頷いて、手を動かし始める。
彼女の視線が、肌に突き刺さるように感じる。
でも、今日は違った。
体が熱くなる。息が上がる。
なのに、頂点に達しない。
我慢の積み重ねが、逆に感覚を麻痺させてしまっていた。
「……?」
ダリアさんが小さく首を傾げる。
いつもならここで「まだダメ」と言うはずなのに、今日は沈黙が続く。
俺は苦しげに息を吐いて、彼女を見上げた。
「ダリアさん……もう、限界なんです。こんなに我慢して……でも、ダメで」
彼女の瞳が、初めて揺れた。
クールな仮面に、ほんの小さなひびが入ったような気がした。
「……どうして?」
声が、わずかに上ずっている。
俺は意を決して、言葉を続ける。
「ダリアさんだって……我慢してますよね?」
沈黙。
彼女の指先が、膝の上で微かに震えていた。
頰が、薄く赤く染まる。
「……違う」
否定の言葉は小さく、力がない。
膝が少し擦れ合って、息が浅くなっているのがわかる。
俺はゆっくり手を止めて、彼女に近づいた。
「だったら……証明してください。見てるだけで平気なんですよね?」
彼女は目を逸らす。
銀髪が顔にかかり、表情を隠す。
「……っ」
小さな吐息が漏れる。
ダリアさんは抵抗せずに、俺の手を自分の膝の上に置いた。
「触っても……いい。でも、勝手に……動かさないで」
声が震えている。
俺はゆっくり、彼女の膝を撫でる。
滑らかな肌の感触。熱い。
彼女の息が、明らかに乱れ始めた。
「ん……」
小さな声。
俺はさらに手を進め、パジャマの裾に指をかける。
彼女の体が、びくんと震えた。
「樹くん……そこ……」
命令ではなく、懇願に近い声。
俺は彼女の肩を抱き寄せ、耳元で囁く。
「ダリアさん……可愛いです」
「ばか……そんなこと、言わないで……」
でも、彼女の目は潤んでいた。
俺は彼女の胸元に手を伸ばし、ボタンを一つ外す。
柔らかい膨らみが、掌に触れる。
彼女の体が震え、俺の肩にしがみついてくる。
「樹くん……もう……」
俺も限界だった。
自分の体を握り直し、彼女の前で動かす。
ダリアさんは俺の動きをじっと見つめながら、自分の体に手を添え、一緒に震え始めた。
「一緒に……」
彼女の声が、甘く溶ける。
互いの目を見つめ合ったまま、二人とも頂点に達した。
息を荒げて、俺たちはベッドに倒れ込む。
ダリアさんは俺の胸に顔を埋め、静かに呟いた。
「こんなの……初めて……」
俺は彼女の銀髪を優しく撫でる。
「俺も……です」
彼女は顔を上げて、俺を見る。
いつも冷たく澄んだ瞳が、初めて柔らかく揺れていた。
「樹くん……私、樹くんのそんな顔を見ていると……我慢できなくなる」
小さな告白。
俺は彼女を強く抱きしめた。
「ダリアさん……俺も、本当に好きです」
彼女は少しだけ微笑んで、俺の唇に指を当てる。
「まだ……全部は、ダメ。でも……これからは、もっと……」
言葉の続きは、そっと重ねた唇で塞がれた。
初めての、柔らかい感触。
そんな歪な2人の関係。
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