第2話
朝の陽光がカーテンの隙間から差し込んで、俺の目を刺す。
昨夜のことが夢じゃなかったことを、頭の奥がズキズキと教えてくれる。
ベッドに横たわったまま、スマホを握りしめて天井を見つめる。
画面にはまだ、昨日のダリアさんのパンチラ写真が残ってる。
慌てて削除しようとしたけど、結局、フォルダの奥深くに隠した。
「……やばい。本当にやばい」
心臓が早鐘みたいに鳴ってる。
親にバレたら終わりだ。
下手したら父さんの会社だってヤバい。
取引先の娘に盗撮してオナニーしてたなんて知られたら、俺の人生詰む。
でも、それ以上に怖いのは……ダリアさんだ。
あのクールな顔で「明日もこの時間に来るから。またしてね」って言った時の、微かに上がった口角。
あれは悪魔の笑みだった。楽しんでる。俺を弄んでる。
「……行かなきゃ」
意を決して布団をはねのける。
顔を洗って、リビングに向かう。
足が重い。
階段を降りるたびに、胃が縮こまる。
そして、リビングのドアを開けた瞬間、いつも通りの朝の匂いがした。
トーストの香り、コーヒーの香り、母さんの鼻歌。
「おはよう、樹」
母さんが振り返って笑う。
父さんは新聞を広げてコーヒーを啜ってる。
そして、テーブルの向こう側に、ダリアさんが座っている。
白い髪を朝陽に透かして、静かにスクランブルエッグを口に運んでいる。
パジャマの上にカーディガンを羽織った姿は、昨夜の妖しい雰囲気とは打って変わって、普通の美少女だ。
俺を見上げて、穏やかに微笑む。
「おはよう、樹くん」
「……お、おはよう」
声が裏返りそうになる。
なんとか平静を装って、いつもの席――ダリアさんの隣に座る。
膝が触れそうで、ビクッと体を引く。
朝食はいつも通り。
父さんが仕事の愚痴をこぼし、母さんが「また残業?」と返す。
ダリアさんは静かに聞きながら、時々「大変ですね」と相槌を打つ。
俺は黙ってトーストをかじる。
もう味のんてしない」
「ダリアさん、今日は何か予定あるの?」
母さんが唐突に聞いてくる。
「いえ、特にないです。樹くんもお疲れみたいなので、家でゆっくりしようかなと。連日連れ回してしまっているので」
ダリアさんの声は柔らかくて、俺の耳に甘く響く。
隣で彼女の視線を感じて、背筋が凍る。
「そうなのー?いいんだよ、好きにこき使って。それでうちの樹はどう? 迷惑とかかけてない?」
母さんの言葉に、心臓が跳ね上がる。
一瞬、昨夜のシーンがフラッシュバックする。
スマホの画面。
イヤホン。
ダリアさんの声。
「……いえ」
すると、ダリアさんがゆっくりと俺の方に体を寄せてくる。
テーブルの下で、彼女の細い指が俺の太ももに触れた。スッと、内側に滑り込む。
股間のすぐ近くを、布越しに優しく撫でる。
「いえ、私の方こそ樹くんには大変お世話になっております」
穏やかな声。
笑顔。
でも指は、確実に俺の急所を押さえている。
脅しだ。
明確な、甘い脅し。
俺は息を止めて、なんとか平静を装う。
母さんは「そう? よかったわ」と笑って、話題を変える。
父さんは新聞に目を戻す。
ダリアさんの指は、もう離れていた。
でも、熱が残ってる。
俺の体は、正直に反応してしまっていた。
朝食が終わって、両親が出かける。
母さんはパート、父さんは会社。
玄関のドアが閉まる音が響くと、家の中は急に静かになった。
俺とダリアさんと二人きり。
「……」
俺はリビングに残ったまま、動けない。
彼女がキッチンで皿を洗う音だけが聞こえる。
逃げたい。でも、どこにも逃げられない。
結局、トイレに行った後に俺は自分の部屋に逃げ込んだ。ドアを閉めて、ベッドに倒れ込む。
自己嫌悪と興奮が混じって、頭がおかしくなりそう。
それから数分後のこと。
コンコンと、ノック音が響く。
来た…。
「……はい」
声が震える。
ゆっくりドアを開けると、そこにダリアさんが立っていた。ニヤニヤと、悪戯っぽい笑みを浮かべて。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/822139845106325453
「あれ? 今はしてないんだ」
「し、しないですよ……こんな真っ昼間から……」
「え? 私は何をしてるか言ってないけど?」
「…っ」
顔が熱くなる。
言葉に詰まる俺を見て、ダリアさんはくすくすと笑う。
「うそうそ。ごめんね? いじめちゃって。それで? なんで昨日はあんなことしてたの?」
ストレートすぎる質問。俺は目を逸らす。
「それは…その…」
「好きな子とかはいないの?」
「好きな子とかは…」
「えー? 私のこと、好きじゃないのに私でしてたんだー。ふーん? 私のこと、そんな風に扱ってるんだー?」
声が甘く、意地悪く絡みつく。
「……」
沈黙。
耐えきれなくて、俺は小さく呟く。
「…好き…です」
ダリアさんの目が、少しだけ細くなる。
「だとしたら、ああいうことするのよくないってお姉さんは思うよ? ちゃんと告白しないと」
全くもってその通りだ。
俺は俯いて、拳を握る。
「あーあ、ああいうことしないで告白してくれたらOKしてたのになー。幻滅しちゃったなー。盗撮したパンチラの写真でオナニーしちゃうとかさー。これ、普通に犯罪だよ? お父さんに言ったら激怒しちゃうかもねー。樹くんのお父さん、クビになっちゃうかもよ?」
言葉がナイフみたいに刺さる。
「……すみません」
「謝って許されることではないと思うなー」
「じゃあ…どうすれば…」
ダリアさんは少し考えて、にっこり笑う。
「そうだねー、まず私のいうことには絶対服従すること。うーん、とりあえずこれを守ってくれれば良いかな!」
「……分かりました」
「それじゃあ、また夜ね?」
彼女はくるりと背を向けて、部屋を出て行った。
ドアが閉まる音が、俺の心臓に響く。
昼間は長かった。
彼女はリビングで本を読んだり、スマホをいじったりして、普通に過ごしてる。
俺は部屋に閉じこもって、頭を抱える。
出かけることもできず、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
そして夜。
◇
時計の針が12時を回る頃、俺はベッドに座って待っていた。
心臓がうるさい。
コンコン。
ノック。
ドアがゆっくり開く。
ダリアさんが入ってきた。
銀髪が部屋の灯りに照らされて、妖しく輝く。
「待たせた?」
「……いえ」
彼女はドアを閉めて、鍵をかける。
カチリ、という小さな音がやけに大きく聞こえた。
「じゃあ、さっそく始めようか」
ダリアさんはベッドの端に腰掛ける。
俺の正面に脚を軽く組んで、じっと見つめてくる。
「昨日みたいに……私のこと見ながら、して」
声は静かで、命令口調。
俺は震える手でズボンを下ろす。
彼女の視線が、熱く突き刺さる。
昨夜より恥ずかしい。
「はい、頑張って」
ダリアさんの指示に従う。
手が動くたび、彼女の瞳が細くなる。
息が少し乱れてるのがわかる。
「声、出してもいいよ。私の名前、呼んで。もうちょっとゆっくりしてる」
「……ダリア、さん……」
「ん……いい子」
彼女は小さく息を吐いて、わざとらしく膝を少し開く。
パジャマの裾が捲れて、白い太ももが見える。
俺の動きが速くなる。
「まだイっちゃダメ。私の許可が出るまで」
「は、はい……」
耐える。必死に。
ダリアさんは楽しげに微笑む。
「可愛い。樹くん、こんなに必死になって……私のために我慢してるんだ」
言葉が甘い毒みたいに染み込む。
俺は限界だった。
「ダリアさん……もう……」
「いいよ。イっていい」
その瞬間、俺は解放された。
体が震えて、白いものが飛び散る。
彼女の視線の中で、果てる。
息を荒げてる俺に、ダリアさんは優しく髪を撫でる。
「よくがんばりました、変態さん。今日はここまで。また明日も、来るからね」
彼女は立ち上がって、部屋を出て行った。
俺はベッドに崩れ落ちて、放心する。
これは、もう逃げられない。
彼女の掌の上で、俺は踊らされるしかない。
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