思い出は氷のように美しく、壊死したかのように冷たい。
- ★★★ Excellent!!!
すべての言葉が、まるで冷たい静脈を通ってつづられているかのようです。画面をフリックして読む指まで凍てつくような気がしました。
赤き血が通っていたかのような躍動するあの愛の日々は、眠らない街の風や生活の垢で摩耗され、気づけば二人の愛は低体温症になっていた。動脈はすでに止まり、惰性のように脈打つ静脈だけが二人の心をつないでいる。手はすでにつなげなくなっていた。
すれ違ったままの二人の旅は、短針と長針のように重ならない。雪降る街の中で、凍える短針を置いて長針だけが先を行く。なぜ同じ時を刻む必要があるのか、二人にすらもうわからない。
そして八幡坂に着いた時、時計の針が重なった。だがそこから先の時間は刻まれない。
針は永遠に重なったまま、一枚の写真に収められた。時間は止まり、二人で育んできた愛が鼓動を止めた瞬間だった。その美しさ───
私はこの作品のエレジーの美しさに息を吞みました。さめざめとした激情が、淡々としつつも血の通った筆致で描かれます。氷に彫刻刀で刻み込んだかのような、力強さのある文章です。
短針だけになっても、時は変わらず進み続ける。いまだに長針の影を、ふと盤面に探しながら───
短編ながら、すごく読み応えのある作品でした。