送り出したSランクの元弟子たちが『師匠は世界最強です』と言ってくるがぶっちゃけ俺よりお前らの方が強いと思う

月野 観空

第1話 才能のなかった男

 アラン・ガントールが自分の剣の才能を諦めたのは、齢三十を迎える頃であった。

 十八の頃から剣に打ち込み、拙いながらも研鑽した。師の下で飛躍的な成長も遂げ、魔王討伐の勇者パーティの一員としても選ばれた。


 そして見事、魔王の討伐を成し遂げ、町に帰ってきた彼は一言こう言った。


「俺に剣の才能はなかった」


 ――そしてアランは、魔王討伐の誉を自ら辞退し、その後は片田舎の村でひっそりと暮らすようになった。


  ***


 ――それから十と余年が経過した。


師匠せんせい、今日までありがとうございました!」

「師匠って、そんなガラじゃぁないよ俺ァ」


 冒険者になるべく、剣を片手に村を出る若者に、アランは渋い顔でそう返していた。


「いいえ、師匠せんせい師匠せんせいです! 師匠の太刀筋、結局最後まで見切ることはできませんでしたから! 師匠は世界最強です!」

「世の中広いぞ。俺より強いやつはごまんといるし、すごいやつはもっといる。元より俺の剣は落第者の剣だからな……。実際に役立つかどうかも怪しい」


 まあともかく、とアランは言葉を続けた。


「冒険者になるにしろ、何を目指すにしろ、変に何かを妄信して視野を狭めるなよ、シーファ。ロートルからの、大してありがたくもねぇ忠告だ」

「はい! 必ずやガントール師匠の剣を世界に広めてみせます!!」

「人の話も聞けるようになろうな?」


 弟子を自称する若者の言葉に、「大丈夫かコイツ?」と内心、不安を覚えるアラン。

 そんなアランをよそに、彼女はぐっと拳を胸に当て。


「それでは、ガントール師匠の第一の弟子、シーファ、行ってまいります!」


 と声を大にして宣言した。


 そんなシーファを呆れたように眺めながら、アランはぼんやりと思い出す。


(そういやこんな風に出てったやつ、他にも何人かいたっけか。今頃あいつら、何してんだろうなぁ……)


  ***


「へくちっ」


 ミア・ガントールはくしゃみをした。


「ミア、風邪か?」

「え、どうなんでしょう? 私今まで風邪なんて一度も引いたことないから分からないです」

「バカだもんなー、お前」


 隣のアンナ・コレットが、揶揄するように口にする。


「あ、アンナちゃん、ひどいですっ。私、バカじゃないですよぉ!」

脳筋アホの方が良かったか? アタイとしたことが、かける言葉を間違えてしまったようですまんな」

脳筋アホでもないですからぁ!」


 と言うミアは、なるほど確かに可憐な美少女といった容姿である。

 動きやすい金髪のショートボブに、華奢な体つき。身に着けた騎士甲冑にまるで着られているかのようにすら見える。


 脳筋、という呼び名が一見ふさわしくないように見える彼女であるが。


「いや脳筋だろミアは。訓練用の模造剣振っただけで訓練場ぶっ壊した人間が脳筋じゃなくて何だというんだ」

「あ、あれはぁ……ただ、力加減間違えちゃっただけで、わ、私は可憐な女の子……」

「無理がある」


 あたふたと言い訳するミアの言葉を、アンナは一蹴。可憐な女の子は剣を振っただけで訓練場を文字通り更地にしたりなどしない。

 騎士団に入団して以来の同期相手に、アンナ・コレットは容赦がなかった。


「というか、ミアが脳筋という話はどうでもいいんだ、どうでも。今不足してる剣術指南役についての相談を続けたいんだが」

「どうでもいいとは、ご挨拶です……」


 不満げに唇を尖らせるミアだが、しかしそれも一瞬のこと。

 すぐに気を取り直した表情となり口を開いた。


「あのですね、心当たりなら、実は一人……」

「それ、前にも言ってたよな。具体的には?」

「えっとですね」


 と、ミアは恋する乙女のような表情となり。


「私のお義父さん♡ 世界最強の剣士です♡」


 と、告げた。

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