大好きなクーデレ幼馴染が『にゃんにゃん勇者』に選ばれたので、お世話しながら新世界を放浪します。

燈外町 猶

第1話・にゃんにゃん勇者

『すき……すき、すきすきすきすき……ミーナ……どこにも行かないで……』

 はぁ……あのさぁ……。

『ずっと……ずっと大好きだから、ずっと、ずっと傍にいて……ミーナ……』

 いつも塩対応だから……こういうことされちゃうと……本当その……嬉しすぎて……頭壊れちゃいそうになるんですけど……。

 ここ数日間のバタバタは全部夢でした。なんてことはなく、目が覚めても――私の16年来の幼馴染――リジュネルはネコになったままだった。

 そして普段の凛とした雰囲気を消失させ、私の手のひらに額を押し付けてひたすら甘えてくる。

「〜〜〜!!」

 今すぐにでも頭を撫で回したい気持ちを無理やり抑え込む。

 私は寝ているフリを続けるべきだ。

 もし今、心の声がダダ漏れになっていることにリジュが気づいたら、恥ずかしさで3日は目を合わせてくれないだろう。

 それだけは絶対に避けないと……だって絶対明日も明々後日もいついつまでも……こんな風に甘えてほしいから……!!


×


「ミーナ」

「はい」

「……あなたは『治療術師』の役職を与えられました。この国の医者となり、人々を助け、発展に貢献しなさい」

「はい」

 そんなわけで、私の役職と役割が今この瞬間、確定した。

 10年に1度、神様から『役職』を与えられた特別な10人の16歳は、魔術の行使が可能になり、それを用いて国に仕える。

 この日の為に死に物狂いで努力してきた。10人に選ばれるために。この国中の16歳と競い合って。

 そして無事、それは成し遂げられた。

 今日から私は訓練生ではなく、役職者だ。私は……願いを叶えた。

 だけど。なってしまったらこんなものかって感じだし、未来が確定したことで安心を得ると同時に、落胆もしっかり味わっている。

 しっかし治療術師か〜私がねぇ〜、こんなガサツ女でもちゃんとこなせるかな〜。

「エルゼワルド」

「はい」

「……あなたは『勇者』の役職を与えられました」

 おわっ、マジか。

「その強大な力は抑止力として在りなさい。明日から各国へ挨拶に回ってもらいます。長旅になりますが、それが選ばれし者の使命です」

「はい」

 流石エル。座学も戦闘訓練もトップクラスだったけど、役職まで超大当たりじゃん。

 教会も大歓声でどよめいている。確かここ30年、一人もいなかったんだよね、勇者。うわーすごー。

「……」

「っ……」

 キザなやつ。観衆にお辞儀をしながら、誰にも気づかれないよう私にだけウィンク飛ばしてきやがった。そういうところが苦手なんだっての。

「静かに」

 神から与えられた役職を読み解き、私たちに伝えてくれるミザンナ先生は、小さく口を動かしただけで静寂を取り戻した。他の人間とは貫禄が違う。

「リジュネル」

 そうしてようやく、最後の一人。

「はい」

 さて。

 さてさて。

 あーなんか自分の時なんかよりもずっと緊張してきたぞ……?

 まぁそうか、だって16年間も同じ部屋で暮らしてきたんだもんねぇ……自分自身以上に自分自身みたいなところがある、いやそれは言い過ぎか。

 神様〜お願い〜! リジュも私と同じ治療術師とか……そういう……とにかく国から出ないやつ! 一緒に仕事できなくてもいいから! 離れなくて済むやつ! 気軽に会えなくなるのだけは絶対やだ……!

「あなたは……『にゃんにゃん勇者』の役職を与えられました」

「「…………はい?」」

「ミーナ、私語は慎みなさない」

「あっ、すみません……?」

 えっ、いや、え? 私悪い? 確かにリジュとハモちゃったけど私悪い? 先生が意味わかんない役職言ったのが悪くない?

「もう一度いいます。リジュネル、あなたは『にゃんにゃん勇者』の役職が与えられました」

 刹那、教会内が静まり返り、更に刹那を挟み、教会は再びどよめいた。エルゼワルドの時と違うのは、それが大歓声ではなく、大爆笑ということだ。

 リジュは普段のクールな表情から混乱へ、そして恥辱に変わっていく。……今すぐに抱きしめてあげたいけど……たぶん今動いたら――

「静かに」

――ガチで先生に殺される。

 教会内は再び静寂……というより、沈黙を強制された。というより、先生から溢れ出す膨大な殺意に当てられて誰も動けなくなったというのが正しい。

「この役職で果たすべき職務は……後日、お伝えします。……所定の位置に戻りなさい、リジュネル」

「………………はい」

 それからは、儀式恒例の口上が述べられ、つつがなく幕が降ろされた。

 先生の威圧がなくなってから、人々は次々に『にゃんにゃん勇者』を話題にして、抑えられない笑いと奇異なものを見る視線を、赤面するリジュへ惜しみなく送った。

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