第2話:おお!そなたがくるのをまっておったぞ

目が覚めたら、僕ら三人は冷たい床の上に居た

見回すと、大勢の人と同じ様に呆然としている二人

羨望の眼差しを向ける者や値踏みするような眼差しでこちらを見る者…


そしてその誰もが何か出で立ちとなっている

現実味のなさから、まだ演劇が終わっていないのだろうか?なんて考えや、ついに頭がおかしくなってしまったのか?という不安が頭の中をぐるぐると駆け巡る


ここで、おかしい事に気づく



二人はともかく、僕に関してはあのとき間違いなく、無くなった下半身を認識した瞬間に意識が急激に刈り取られ、そのまま死んだはずだ

それが今は周りを見回し状況を整理しようとしている

何が起きたのだろう そもそもあれは夢だったのか?という思考を、あの瞬間感じた痛みの記憶が全力で否定する


一体ここはどこで、僕に、二人に何が起きたのだろう…


そんな思考が堂々巡りを起こそうとしている時、耳元から?頭から直接?響く様な声が聞こえてきた


「すまない、無事か!」


突然の声に周りを見渡すと、様子がおかしいことに気づいた

周辺の人間どころか、ケースケや美代も


「急に声をかけて申し訳ない、混乱するよな…聞こえてるか?」


何が起きているかもわからないまま、恐る恐る首を縦に振る


「そうか…よくわからないと思うが聞いてくれ。俺はな、今の君の体の所有者だ」


…何を言っているのだろうか?現にこの手の感覚は自分で、背丈も一緒。

無くなったはずの下半身も…なくなる以前の状態になっている


「…自分には、君に状況を正確に伝える義務と責任があるのと自分は思ってる、おかしい話だと思うだろうし取り乱してしまうかもしれないが…どうか落ち着いてくれ。その下半身、本当に一度無くなってるんだ。というか一度君は死んでいる」


一度死んだ?馬鹿を言うな と否定したくなるが、あの痛みが、意識を手放す感覚がそうさせてくれない そういった実感も含め、思った以上に落ち着いて話を聞く姿勢を取ることができた


というか、なぜ会話がつながっている?


「それな、君の思考や逡巡は現持ち主の自分に筒抜けになってしまってるんだ。疎通方法としては混乱してても割と喋れたりするしこういう感じに設定してたんだが…伝えたい時だけ念じれば…って方がいいか?落ち着いているししっかりと喋れそうだ」


是非そうしてほしい 演りすぎでついにもう一個の人格でも生えてきたのかと思ってしまう


「了解…っと、これでオッケーのはず。伝えたいなーと思いながら頭で念じてみてくれ」


(…こう?)


「うん、それでいい ちなみに周りには俺は見えてないし、もう一人の人格ってのは間違っちゃいないと思うぜ」


(なるほどね…あんな演じ方ばっかりしてたからついに頭おかしくなって、演劇の登場人物と主人格が入れ替わっちゃってる?君はいつの僕かな?)


「結構ちゃんと混乱してんなぁ!そういうのじゃないって!時間は止めてるから無限にあるしちゃんと説明するな!」


声の男(仮称)が説明するにはこうだ

・ケースケと美代には異世界で発揮できる特殊な能力があり、それに目をつけた異世界の団体が所謂“異世界転移”のための儀式を仕掛けた

・方法は体感した通り、世界に無理矢理穴をあけ、この場に落とすこと

・その儀式から救出しようとしたのが僕で、その過程で転移用の穴に身体を両断されて死んでしまった

・この異世界侵略とも取れる行為は、本来他世界からもバッシングを受けるものになっているが、世界の生活水準が上昇したりする例が多いことから「その世界の住人が勝手にやったこと」として黙認している神も存在する

・こう言った行いを取り締まる組織が神様ネットワークの中にはある様で、今回潜入調査的な意味で世界に侵入したのがこの声の男

・ちょうど亡くなった体があった為、その体を再生して自分の体にした(それが僕)


…利害関係的なものがあるにしろ復活させて貰ってるのか、巻き込まれたといってもこの人のせいでは無いというのも分かって良かった


「って感じなんだが…巻き込んだ手前悪いんだけど、この世界のに協力してくれないか?終わったら必ず元の世界に帰すと約束するから!」


(あー…それなんだけど、協力するのは全然良いとして、結構派手な場所でおそらく色々撒き散らして死んじゃったから、帰っても「おお!生きてた!」ってならないと思うんだよね)

僕は不安そうにそう答えた


「派手な…ってどんな場所よ」


(全国公演してた演劇の千秋楽、しかもカーテンコールの場で)


「…なんとかならないかもなぁ…別人として三人で過ごすみたいになっちゃうかも」

急に弱々しくなる声の男

まあ、そこはどうにかなろうがならなかろうが僕的には問題ない 死んでももう一度チャンスがある っていうなら齧り付いてでも元の世界に戻るために頑張ろう とすでに腹は決めていた

ということで、もう半分は答えが決まっていたんだけど、僕は最後に尋ねた


(そこはまあ生きて此処から帰れたら…って所だからいいとして、二人も一緒に帰るって約束出来る?二人とも大切な人なんだ)


男ははっきりと応える


「必ず」


姿は見えないが、信念のある答えを聞けた僕は安心した

(…よかった、じゃあ僕は協力することに異存は無いよ。好きに身体も使って良い…というか君の体なんだっけ)

安堵の気持ちを乗せて、僕は声の男に返答した


「それなんだが…おそらく二人と自然に接することが出来るのはカイくんだ、基本的に君が表に出てきていてほしい 荒事になれば俺が力を貸すし、何を見たいとかは都度伝えるよ」


なんか二度手間にならないか?と僕は思ったが、了解の意味を込めて首を縦に振った


そしてもう一つ


(そういえば、君って名前あるの?)


今まで聞いていなかった名前を尋ねた、今後何度も呼びかける事になるだろうからね


ついうっかり、と言った口調で男は言う


「悪い悪い、普通最初に名乗り出るべきだよな、俺のことはユウって呼んでくれ」


やたら日本人っぽい名前だな と思ったが、それ以降特に気にせず

(わかった、ユウ 僕のことはカイって呼んでくれ)

と返答しておいた


「オッケー、カイ…早速だけど、今は色々と込み入った説明をするために体感時間数万倍にして、擬似的に時間を止めている 準備が出来たら体感時間を元に戻すが、あと気になることはあるか?」


ユウからの最終確認を受け、僕は少しの逡巡の後纏まった答えを返す

(そうだな…一旦僕は二人をこの“敵地”から逃してからの方が、調査がバレた時に人質とかも取られたりしなくて動きやすい思うんだけど、何か名案は無い?)


うーん…とユウの唸り声が聞こえて、こう答えた

「そうだな…例えば二人がこいつらにとって“要らない者”と認識されれば追放されたりとかしないか?」


なんだか聞いたことあるシチュエーションに、僕は思わず笑ってしまった


そして


(いいね…得意だよ)


と、一言返した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る