勇者になっちゃった 〜演技バカの僕がかませ勇者ポジションになって、全てを救うまで〜

あけちゃん

召喚勇者誕生

第1話:おおゆうしゃよ しんでしまうとは なにごとだ

演じること


白野絵しらのかいという男の人生は、それに全てを費やされたと言ってもいい


なぜ“費やされた”と表現するか?

それは、彼は今しがた命を落としてしまったからである


今から語られるのは、彼の直向きで不器用な人生の終わりと、そののお話し


是非、面白おかしく見てくれると幸い




──────────────────




「──お前のことが気に食わねェんだよ!いつも教室の隅で蹲ってたゴミの分際で!」


僕、白野絵は叫んだ


今日はこんな演劇

主人公をいじめていた男が異世界で勇者となり、それよりも強い力を持った主人公になす術もなく惨敗 断罪されてしまう


そんな物語で、僕はになった


僕の人生を全て賭けていると言ってもいいほどで、演劇界隈では「演技派の鬼才」とまで言われているほどにまで成長し、自信もある


それでも、華を持つ者・輝きを放つ者というのはまた別に居るもので…

今日は所謂そんなスターで、僕の最も信頼する者との大舞台


「…確かに僕は君にいじめられて、何も出来ないゴミみたいな人間だった、なんで僕ばっかりと世界を呪ったこともある。そんな僕でもこの世界で変われたんだ…いつまでも僕に固執し、立ち止まっている君と違ってね」


やはりケースケ── 永井慶介ながいけいすけは完璧だ

弱者である自分の成長を誇示し、“君とは違う”という決別と前向きな覚悟を話しているのに、つい今までの怨恨が言葉の端から滲み出てしまう主人公の気持ちを見事に表現出来ている

まさに僕にない“華”を持った男で、且つ自分の演技に本気でぶつかり合って、手を取り合ってくれる最高の友

といっても、交友関係も広い彼のことだから、友と思ってるのは自分だけかもしれないが

だから演技中だと言うのにこんなしたり顔で、彼の演技を味わうような真似をしてしまうのだ



そんな彼と同じ劇団で切磋琢磨し、同じ舞台で演技を出来ることが、僕にとってのアイデンティティであり、誇りであると言っても過言ではないかもしれない


だからこそ、上がりそうな口角を必死で抑えながら、僕も全力で返すんだ


「うるせぇ!このゴミクズ野郎!借り物の力でイキリ散らかしてるだけのカス野郎が!」


「─それはあんたもお互い様じゃない 初期パラメーター最強・リーダー候補の?」


そして彼女──佐伯美代さえきみしろも外せない

彼女は可憐な見た目と演技力を兼ね備えた“最強の実力派”(と僕は勝手に呼んでいる)


天稟・才能…なんと言い換えても良いが、もちろんそんな物は備えているが、この業界ではそんなものはスタートラインでしかない


彼女の恐ろしいところは“超がつくほどのストイックさ”にある

誰よりも早く稽古を始め、誰よりも遅く稽古を終えるなんてことは、彼女にとって当たり前

その日の疑問や違和感を次の日に残さず、全てを説明できる様になるまで演技に打ち込む

そして表の場ではそれをうまく隠しているのか、疲労を残さないための努力なのか、次の日には血色も良い…スーパーヒーローみたいなヤツだ

そしてその多大な努力に裏打ちされた感情の言語化や台本解釈には、同じ仲間として何度も助けられた

彼女にもまた、尊敬と感謝の気持ちを込めて、自分の全てをぶつける


「──テメェもだ!俺に靡かねぇクソ女が!そんなにそのゴミカスのチンポが良かったのか!?」


「まあお下品、チンポよかったのよ。この租チンのお猿さん?」


「…!!! テメェら、ブッ殺す!!特にそっちのクソ女はブチ犯してから殺してやる!!」




ああ、この二人と何時までも演じていたい…と幸いな事に二人も思ってくれていたようで、僕たちは三人で劇団を立ち上げた


仕事があれば夢中で飛びついた

「また一つ世界が広がる」と


千秋楽のカーテンコールでは何度も喝采を浴びた その音が、僕たちが最高のアクターだと証明してくれているようで嬉しかった


ただまあちょっぴり悲しかったのは…僕には割とアンチが居た

二人のお溢れで劇団を建てた男だの、ガチで性格悪くないと出来ない悪人だの、「悪役が上手すぎるのは二人への劣等感の現れ」だとか…

時には根も葉もない噂も立てられちゃったりして…その度に二人が庇ってくれたりしたけど、常に何かがような状態だ


でも良いんだ、僕はこんな幸せな時間を過ごせている それだけで悪評に勝る幸せを僕は手に入れている


この時間がずっと続けば良いのに──


───────────────────


「──カイ?」

急に横から声が聞こえてきた


「…あぁ?どうしたよアバズレ」

僕は答えた


「…ちょっとカイ、まだ


「…ごめん、またやっちゃった」


美代に指摘された僕はハッとして謝った


どうやらもう演劇はおしまい、残すところはカーテンコールになってしまっていたようだ


「またの?」


ケースケが心配そうにこちらに問うてくる

これが僕の才能タレントであり、悪癖とも言えるモノ

演技が楽しすぎるが故、役に入り込む過程で「白野絵じぶん」をいつの間にかどんどん捨ててしまうのだ 演劇の終わる頃には記憶すら曖昧になる程に


一応こうなってしまう“条件付け”というか、一定以上感情が乗らなければここまではいかないのだが、この二人と演じ始めてこうなることが露骨に増えた

そのうえ最近は知名度も上がってきた関係で、著名な脚本家さんとお仕事させていただくことも増えてきた

頂く台本も思わず朝まで読み込んでしまうほどの完成度で、自分が自分でなくなる時間がどんどん伸びている

個人的には幸せなのだが、二人には迷惑をかけて申し訳ないな…と思っている

しかし、そう思いながらもこの才能に演技をしているのが現実だ


僕がこの時間を守るために出来ることは、演技これ以外、何もないのだから



「さあ、千秋楽・カーテンコールだ。飲まれる様な拍手をカイの目覚ましがわりにして、次の世界に羽ばたく準備をしよう!」

ケースケが発破がけし、それに応えるように協力してくれたスタッフさん達もおおー!と声を上げた

ケースケは、こう言うキザったらしい言葉で格好つけるのが本当に似合う男だ

僕には出来ないから、ちょっと羨ましい


そうして、自然な自分で舞台へと歩み出す


千秋楽に近づくにつれ僕らの演技は洗練され、最後に相応しい演技をこの会場に届けられたと言う自負はあるが、お客さんこの瞬間はいつでも怖い みんなは楽しんでくれただろうか?


そんな不安をよそに、会場からの大喝采で僕たちは迎えられた

思わず破顔してしまう

そして幾つかの挨拶のあと、皆で手を繋ぎ最後の挨拶をしようとした時




舞台の上 しかもケースケと美代の真下に


僕は咄嗟に穴に落ちた二人を掴んだ

ケースケの腕を両手でしっかりと握る

美代もケースケの腕に辛うじて捕まっているが、あまり長くは持ちそうにない


「引き上げて!」

誰に叫んだかもわからない声を上げる


火事場の馬鹿力とはよく言った物で、二人分の体重を支える僕の腕は、今でもしっかり握られていた

だが“抑えられている”ような感覚はあれど、依然引き上げられる事はない

なぜと思い自分の体を見ると、空いていた穴が閉じそうになっており、その穴に体を締め付けられていただけだった

そして構わず閉じていく穴


痛い

無限に続く様な一瞬が、工場の事故映像とかがこんな感じだったなとか、これから死ぬのかとか、さまざまな思考を反復させていく


なんて事を考えているうちに、あっけなくその時は訪れた

腰あたりから聞こえる“ぶちっ”という音と共に、僕の下半身は


その直後、下に落ちる様な感覚と共に、僕の意識は消失した


──────────────────


こうして、演技に生きた男は幸せの最中に謎の事故で亡くなった

著名人であることや起きた事象の特異性から、定期的に起きている行方不明事件との関連性や事件性の懸念、劇場側の安全管理問題等がメディア等で連日議論されたものの原因の糸口が一切掴めず、各局が同じ様な報道を繰り返した後徐々に風化していった


ただその不可解さからネット掲示板行方不明者二人・死亡一名の未解決事件として数年経っても語られることなり、今でも「怖い話」のタネになっている



そして、ここから始まるのは彼らのそのの話だ



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とりあえずプロローグ的なものを書きましたが、続くかどうかは不明です

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