第3話 こちらの気持ちなど知る由もない

 昨日のことが頭から離れない…。


 まさかあんな可愛いシスターさんと彼女になって、デートして、夜もたくさんラインして…あんなことになるなんて…。


 人生は何が起こるかわからないものだと再認識した。


 ホクホクな気持ちで学校に着いて、教室に入ると、案の定、美咲とあいつはいつものようにくっついていた。


 その瞬間、一気に現実に引き戻される。

窓際の席で、あいつが美咲の肩を抱き寄せ、耳元で何か囁いている。


 美咲はくすくす笑いながらあいつの胸に額を押しつけ、まるで「私たち世界一ラブラブです」と言わんばかりの雰囲気だ。


 あいつはさらに調子に乗って、美咲の腰に手を回し、制服のスカートの上から尻のラインをなぞるように撫でている。


 周りの男子がチラチラと視線を向け、女子の一部は露骨に顔をしかめていた。

俺は自分の席に座り、教科書を開くふりをしながら、拳を強く握りしめた。


 ……昨日、アリスさんとあんなに幸せな時間を過ごしたのに。

一瞬で胸の奥が黒く染まる。

あぁ、むかつく。死ね死ね死ね。

…本当に死ねばいいのに。


 でも同時に、美咲があんな顔で笑っているのを俺は見たことがない。

幼馴染ですら知らない顔をたったの1ヶ月足らずで引き出せてしまうのか。

俺たちの関係は一体…なんだったのだろう。


「おー悠真〜。相変わらず元気ないなー」

「…元気なんて出るかよ」


 友達が声をかけてきたが、適当に誤魔化して窓の外を見ていた。


 あの日から美咲とは一度も目が合わなかった。

話をしていても真っ直ぐ目を見られなかった。


 あぁ、早く高校を出たい。

そう思いながら憂鬱な1日を過ごしていた。


 放課後、俺は寄り道せずにまっすぐ家に帰った。

部屋の電気をつけ、ベッドに倒れ込む。


 スマホをいじりながら、アリスさんとのプリクラを何度も見返していた。

あの笑顔を見ていると、少しだけ心が軽くなる。


 すると——ピコン。

LINEの通知音が鳴った。


 もしかして、アリスさん?と思って開いたら

美咲からのLINEだった。

俺は息を止めた。


【美咲】

『悠真、なんか学校で元気ないみたいだったけど、大丈夫?』


 指が止まる。

一体、誰のせいだと思ってるんだ。

さて、どうやって返信したものか。

迷った末に、俺は返信した。


【悠真】

『まあ、普通だよ。美咲こそ、毎日楽しそうじゃん。彼氏とさ』と、ちょっと嫌味な感じで言ってみた。


 少し間を置いて、既読がつく。


【美咲】

『うん、楽しいよ!彼氏がいると世界が変わるっていうか、本当に毎日が幸せなの!』


 その一文で、俺の心臓が止まった。

あぁ、そうだな。その気持ちは痛いほどわかる。


【悠真】

『そっか。お幸せに』


 そう送って、スマホを放り投げる。

すると、電話がかかってきた。


 相手は美咲だった。

無視しようにも数秒前までラインしていたわけで、仕方なく電話に出ることに。


「もしもし、悠真?」


 美咲の声は、少し掠れていた。

いつも教室で大河に向けている甘い声とは違う、素のトーン。


「…何?」

「いやー、なんか電話したくなって!」

「…そうか」


 それからいきなり昔の話を始めた。

小学生の頃に二人で川に落ちた話、中学の文化祭で一緒に屋台番をした話。美咲は時々小さく笑った。


 そして、ふと美咲が言った。


「いやーでもねー、彼氏って本当にいいよ!毎日幸せっていうか…本当学校に行くのがこんなに楽しいなんて思わなかった!!でも…最近会うたびに毎回、エッチなこと迫られて〜、まだそういうの慣れてないから、結構大変なんだよね!w」とか、そんなことを平気で俺に言ってきた。


 あぁ、俺って本当にそういう目で見られてないんだなって、今更わかって胸がぎゅっと締め付けられた。


「…そうなんだ」

「そうなの!いやー今度旅行に行く計画もしててさー、温泉旅行!すっごい楽しみなんだ!だからさ、悠真も早く彼女作りなよ!」


 …多分、今の俺はすごい顔をしているだろう。

泣きたいくらいに悔しくて、情けなくて、けど美咲がエロいことしてると考えたらボッキして、本当にバカみたいだ。


 この10年は俺にとって、いや俺たちにとってこんなにも意味がなかったのかと、そう思ってしまった。


 今すぐ電話を切りたくなった。

こっちの気も知らないで、ただ惚気たいだけで電話してきた幼馴染に…少しだけ復讐したくなった。


「…彼女ならいるよ」

「…え?wまっさかー!もしかして、二次元の人?そういうのは彼女って言わないよーw」

「違う。本当の人。4つ上のシスターさん」

「いやいやいやw設定盛りすぎだってwあり得ないでしょ、そんなの」

「…本当。昨日…付き合い始めた」


 それからも一向に信じようとしない美咲。

まぁ、そりゃ俺みたいな女子に縁もゆかりもない人がいきなり、年上の金髪シスターと付き合ったと言って信じるわけもないか。


 なので、昨日撮った写真を送ってみた。

しかし、「今のAIってすごいねーw」とそれでも信じようとしなかった。


「…もういい。俺も彼女と…電話するから」というと、向こうが何か言いかけたところで無理やり切断した。


 …本当…何してんだろ、俺。

そうして、もう一度スマホを放り投げた。


 すると、そのタイミングでまた電話がかかってきた。


 どうせ美咲だろうと、そのまま目を閉じて、俺は眠ることにした。


 本当、この世界なんてぶっ壊れてしまえ。

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