ある老夫婦が路面電車に乗りながら自分たちの人生を振り返る話。といっても、もう少し幻想小説っぽい仕掛けはありますけれど。
東京でも路面電車が現役のところはありますが、この二人にとっての路面電車は高度成長期にだんだん姿を消していった路面電車。あくせく働く社会がのんびりとした社会を段々と押し流していった頃の思い出が主に描かれます。とにかくその一つ一つが味わい深い。「路面電車で春を待つ」みたいなお題ですと、一面の菜の花畑だの、青空の下をどこまでも続く鉄路だのを描きがちですけど、そういうのではないのです。電車がカーブに差し掛かった瞬間、隣に立つ若かりし妻のおさげ髪が、ぶんっと振れて顔に当たって痛かった。こんな描写がさらりと書かれてるんですよ。揺れる電車のリアルってむしろこっちじゃないでしょうか。こんな体験したことないけど、したことある気になりましたよ。
……わたしの紹介が下手くそなせいで、ぜんっぜん伝わってない気もしますけど、ちょっとでいいから読んでみてください。おすすめです。