バレンタインデー、それは乙女たちの戦場。
乙女の方から攻勢に出るのが礼儀作法となる宴。
想いをカカオの雫に込め、己の愛と共に一世一代の勇気を振り絞る、情け無用の乱世の如き戦いの日。
栄光の椅子を勝ち取るのはいつの世も一人、そしてその椅子を求めて彼女たちは鎬を削る……。
一体どうしてこうなった、と聖バレンタインも草葉の陰から訝しんでいることでしょう。
そんな乙女の戦に身を投じるのは、ぬいぐるみの庇護と共に歩んできた一人の少女。
決して整っているとは言い難い不格好なチョコを携え、意中の男子に思いを伝うべく立ち上がります。
……と、ここだけ見ればよくあるバレンタインのお話ですが、彼女の場合はもう一つ、ぬいぐるみという自らのシェルターからの巣立ちの儀式もこの戦いに重なっているわけです。
今まで常に頼ってきた杖であるぬいぐるみをあとに残し、不安に駆られながらなけなしの勇気を頼りに決戦の地へと向かう乙女。
いじらしいじゃありませんか。
そんな彼女を嘲笑うかのように、圧倒的強者のオーラを携えて立ちはだかるのは、女王の如き別の乙女。
自信満々、準備万端、100%絶対の余裕を持って、少女と同じ椅子を狙います。
こういう高飛車なキャラがみっともなく負ける姿からしか摂取できない仄暗い栄養素ってあると思うんです、麻薬的な。
杖なしで歩き出した少女と、立ち塞がる女王。
栄光を掴むのはどちらか。
そして、私は危険な栄養素を得ることができるのか。
ひとまず、少しビターなチョコレートを用意しつつお読みください。
シリーズものという短編でもありましたが、単独で読んでも違和感のない自然な流れだと思います。
作者さんの猫好きな想いも伝わり、心温まる内容でした。
バレンタイン記念ということで、チョコ絡みで高級チョコに負けない手作りチョコで勝負という、リアル女子寄りな設定を上手く活かした展開でもあります。
バレンタインということで、出来れば二人が結ばれる甘々なルートを期待していましたが、このような爽やかな青春劇もいいかなと思い、一気に読み更けてしまいました。
ベタなラブコメのような読み疲れもなく、スラスラと読みやすい作品です。
ただのカッコつけのチョコではなく、肉球チョコで勝負という発想も良いですね。