さくら・さくら

うさぎさん⭐︎

さくら・さくら


 デートですっ! デート、誘っちゃいましたっ! おっしゃあああ!!!

 二つ隣りのクラスの武田(たけだ)くん、ちょーおおおタイプっす! メガネがベリベリナイスな、キュートなインテリボーイ。っつーか、暗いです。友だちいなそーデス。ナニ考えてるか、さっぱりワカリマセン。
 でも、いいの!そういうトコが好きなの♡♡♡

「行こうよ、行こうよ、行こうよっっっ!」
 ああ、ドキドキする。
「デートするッス!」


 忘れもしない昨日、白昼堂々正々堂々大声でin二つ隣りのクラスの教室。素敵に昼休み。
 

 みなさんの視線二人ジメななか、


「……」


 とってもメ〜ワクげに武田くんは私を見た。




 っつーコトで。その翌日な今日、日曜日。


 来ます! 絶対来ます! 武田くんは。


 昨日は武田くんなんにも答えてくれなかったけど━━ソレは肯定なんです! ええそうですとも。
 

 本日の格対は、ピンクなウサギのプリントティーシャツに、赤地に白ウサギのプリーツスカート。青いスニーカーと白いソックスにもウサギのワンポイントあり。黄色なミニリエックも同様。……ウサギ好きなんだからして、ほっとけ。
 

 コレで武田くんもウサギなカッコしてきたら運命かも。……有り得ないだろうか。
 待ち合わせ場所は地元駅前広場。時間はジャスト一時、お昼の。指定したのは私。まーあま当なトコでしょ。


 ……今十分前。そろそろ武田くん来るかな?  ちなみにどれだけ前から待ってるかは乙女の秘密です。気合い入れすぎてちょー早く来てしまった。


 夏色の空を仰げば。……あ、「武田くん」


 人混みの中、私的にキラキラ光って見える彼。ラフなカッコ、黒いティーシャツ、ブラックジーンズ。来ました来ました来ました!


「なんだ」彼が言います。「ほんとに来たんだな」


 ええええ物論ですともっ!




「武田くんお昼食べてきた?」


「ああ」


「じゃあサ、カラオケ行こ? 私好きなんですっ!」


「行かねー……」


「なら、駅ビル探検素敵にウィンドゥしょっぴんぐぅ」


「だりィ」


「おっしゃ! ゲーセン! ガンゲームしましょう‼︎ 敵さん撃ちまくりっ! ストレス発散できますよおお。あ、プリクラもご一緒にいかがですー?」


「.....なんでおまえはそんなに元気なんだ」


 やん、それは目の前にいる誰かさんのおかげに決まってるじゃないですかあぁ。そんなこと言え・な・い・けど♡


「あーん、どうしよどうしよどこ行こ?」


「なぁ白川(しらかわ)」


「はーい♡」


「頼みがある」


 な、なんでしょう? 武田くんたら、急にマジな顔です。ドキドキします。
 ……は‼︎ もしかしてアレですかアレですか? いきなりアレをお望みですかぁぁ⁈
「だ、ダメですよーおそんなぁぁ。い、いきなりこんなところでキ……KISSだなんてー。きゃん♡」


 なんちゃって本当はいつでも準備オッケーなんです! 歯磨きしまくってきましたものー。ふふふー♡ 純な私はもちろんファーストキッスもまだですわっ! ちなみに只今中二だったりしますー♡


「実は俺……妙な組織に狙われてて……」


「またまたぁ、お戯れを♡」


「マジだ。B組の山梨(やまなし)がヤクザの娘なのは知ってる?」


「やーん、ハイセンスなご冗談を~」


 ……山梨志奈子(しなこ)。通称しーちゃん。キレー系のお嬢さんです。去年一緒のクラスで結構私と仲良かったりしてー。


「本気だ。……実は俺最近山梨にコクられて」


「なんですとッッッ⁈」


 山梨志奈子。今から私の心のブラックリストに追加。……知らんかった、武田くんラヴだったのね、しーちゃん…....。


「で、あっさりフッてやった途端━━」


 彼のエンジェル・ヴォイス (私認定)を打ち消すようにして、黒服の大男たちが(え~と、三人です、はい)足音荒く登場です~。や~ん、これラブコメなハズなのに~ィ。


「武田仁史(ひとし)!  志奈子お嬢をフッたにつくき敵‼︎  しかも自昼堂々他の女とデートだァ⁈ コ・ロ・ス‼︎!」


 ギャー⁈  ド、ドスです! ヤバイ刃物構えてます。日光反射して光ってる。
 駅前広場は戦場、修羅場⁈  そこらの善良ピープルなみなさんがうちら大注目ッ!
「頼む。白川。なりゆき的にバイタリティ溢れるおまえに頼むことにする。ヤツらを説得して、八方丸く治めろッ‼︎ ヤレッッ‼︎」


 武田くんってこういうキャラだったんすかー? あぁ、ますますス・テ・キ⭐︎ 内気な私はいつも彼を遠くから見つめるばかりだったから……。やっぱり見てるだけなのと、実際にコミュニケートするのは違います~。


「ん~」私は腕組みしました。「名案浮かびました♪」


「ホントかッ⁈」


「はい~! もし私がお望みどおりこのミッションをクリアしたら、武田くんは私と……きゃっ、お、おつきあいしてくれますー?」


「…………。一つ訊こう。おまえにこの状況を打破する知恵があるのか?」

「ありません~♡ はっきりいって私バカですもん~♡♡ でも愛があれば大丈夫! ラヴは地球をも救うんですからっ!」


「.....。名案ってのはなんだ」


「は? だから、ミッションクリアしたら私たち二人がおつきあいー♡ってのがそう」


「イミネ〜ッ‼︎」


 武田くんはいきなり私をヤーさんたちのほうに蹴飛ばすと猛ダッシュ! ヤーさんたちも私を横に弾き飛ばすようにして彼を追いかけダッシュダッシュ! もう誰も私なんて一顧だにしません~。
 ここで大人しく尻尾巻いて帰っちゃ、白川真園(まその)の名がすたります!

  てゆうか、せっかくの武田くんとのファーストデート、邪魔されてたまりますかっ‼︎


「絶対絶対彼を救って、彼とラヴラヴおつきあいしてみせますッ‼︎」


 私は空の彼方のどなただかに誓うと、ソッコー武田くんをおいかけました!


 .....い、いません(泣)。きっと目立つ感じに走ってるかドンパチしてると思ったのにー。影も形もないよ~。どうせなら一緒にお手々繋いで逃げたかったよ~。吊り橋効果ってご存じですか? 吊り橋の上で出逢った男女はラヴな関係になることが多いんですって
~♡ 吊り橋の上での恐怖のドキドキと、ラヴのドキドキが混合しちゃう感じっての? だからそんな感じに一緒にアクションしたりピンチ切り抜けたり、何か一つのコトを成し遂げたりした男女はラヴラヴになっちゃうのー♡ほら、アクション映画のヒーローとヒロインがいつのまにかラヴラヴラヴになってたりするでしょ? アレよアレ‼︎ 私も武田くんとアレをしたかったよ~ッッッ‼︎


 私はケータイ取り出しました。山梨志奈子にTELっす。
 ……チッ、出ね~よ、志奈子……。
 

 お嬢懐柔作戦は決行不可か……あいつんち知らねーし……新しいメルアドまだ知らんし。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう……。


 私は闇雲に走り出す。尽きないパワーと諦めないマインドが私の取り柄なんです~。
 あぁ私の街。この街のどこかに愛しき人がいます。私を待っています。私のラヴパワーと、感情型人間にありがちの勘のよさ(理性的でないぶん勘を頼りに生きてきたぶん、勘のアビリティにポイント溜まってるらしいデス)であなたを見つけてご覧に入れますっ!
 さぁ私のセンサー、武田くん反応キャッチして!




 .....いました‼︎  小汚い袋小路。武田くんが倒れてます……


「ソンナァァッッ‼︎ イヤ、武田くん、どうして……」

 私は彼の体に縋り付いた。

「どうして私を置いて先に逝っちゃうのォォォッ!」


「勝手に殺すなっ‼︎」


 武田くんが起き上がりました。あ〜……いろいろ怪我してます。口の端から血が出てたり……なんかフラフラしてたり。こんなときにこんなの付不謹慎だけど、血なまぐさい武田くん……すごいかっこいー……ツボです。


「アイツらにヤラれたのね……!」殺気に目を燃やして私は言う。「許さねェ、ブッ殺す‼︎」


「……ヴァイオレンスしないでくれ。白川には関係ねェし」


「あるよっ‼︎」私は彼の二の腕を掴む。「私、武田くん好きだもんっ‼︎」
 …………。い、言っちゃった……。


「悪いけど」彼は私の腕をほどいて、表通りのほうに歩いていく。「俺、女興味ないから」
 

 私は無言で彼を追います。


 ……知ってました、そんなこと。だって私、ずっと見てたもん。だけど、私は……武田くんのそういう硬派なトコも大好きなの……。


 私は手で乱暴に目を拭う。涙なんか出したくないのに、どうして出ちゃうのかな……止まんないのかな……。


 武田くんは一人でどんどん先に行っちゃう。私は走って━━無様に転んだ。


 あぁ、志奈子。私わかるよ……。
 武田くんにフラれたときのあなたの気持ち。
 きっとこんなふうに……こんなふうに、頭が割れそうで、胸の中でぐるぐる何か黒い物が渦まいて……立ち上がれない━━。


 私は歩道に膝をついたまま、泣きまくった。

   *  *  *


「どうしたんだ?」


 あれは四月。中二に進学したての質。桜の咲く学校の裏庭で、私は独り泣いていた。
 

 声をかけてきたのは、メガネに黒髪の、目立たない感じの男の子。


 ありがちな理由だった。両親が離婚することになった。私は母親と暮らすことにした。ドラマやなんかで散々見てきたはずなのに……
 

 私は泣いてて、嗚咽の声を上げるばかり。


 どうしてすぐに逃げ出さなかったのか。


 涙なんて人前で流せるほど、私は無邪気じゃない……
 親にも見せたくないから、こうして独り、人けのない場所で泣いていたのに……
 彼は立ち去らなかった。
 

 困ったような優しい瞳で、私を見て……
 私は不思議と心安らかになったの。
 

 泣いてもいいよ。そう彼の瞳がいってくれてる気がして……


 彼は私が泣きやむまで、ずっとそばにいてくれた……


   *  *  *


「おい」


 そっけない声が頭上から降ってきました。


 なんだか私、最近戻腺ゆるいのかな。前はそうじゃなかったんだけどな……。 


 恥ずかしくて、私は相手の顔もろくに見れずに立ち上がる。


「す、すみません」


 善良なピープルさんが泣いている私を見て心配して声をかけてくださった、そー思った。世の中まだまだ捨てたもんじゃないさ。


「おい、おまえ、ツラ貸しな」


 ハイー⁈  私は顔を上げた。ヤーさんだった……武田くんに酷いコトした三人組!
 

 …….私は無言で、ヤツらを睨んだ……。




「オ〜ホッホッ! 聞~たわよ、真園! あんた今日マイラヴフォーエヴァー武田くんとデートしよーとしてたって?」


「し、しーちゃん……」


 レトロな少女漫画的ライバルモード全壊な山梨志奈子が、ヤクザに囲まれて縄に縛られた私をおもしろそ~に見てる。


 ちなみにここは志奈子のうちらしいっす。


 なんか素敵なお座敷。ローテーブルに日本茶。私は座布団の上。トイメンに志奈子。微妙に私、客人待遇? うぬぬ……。


「昨日の昼休み、あんたがうちのクラスに来て武田くんにアホなこと抜かしたときは鼻で嗤ったけど、まさか、武田くんがノコノコあんたに会いにいくなんて……」


「そりゃ~決まってるじゃな・い・ですか! 武田くんは少なからず私に好意を持ってるの! だから待ち合わせ場所に来てくれたの!」


「オ〜ホッホッ! おもしろい冗談ね」


 うるせーな、ほっとけよ。少しくらい夢見させろや。私今すごい機嫌悪いんだからね。


「しーちゃんのほうこそ、聞ーたわよ? 武田くんにフラれちゃったんだって~? うふふ。か~いそ〜」


「かわいそくない! 違うもん、フラれてないもん! 武田くんはシャイだから心と裏腹なコト言っちゃっただけだもんっ! 嫌よ嫌も好きなうちなんだもん、うわわぁぁぁんっ!」


 しーちゃん号泣。うぅ、ちょっとかわいそうになっちゃうなー。私の周りのヤクザ三人は殺気だった雰囲気だけど、そんなん私は気にしない。


「それよか、どーいうこと、志奈子⁈  あんた、この三人使って、罪もない武田くん追い回して、あまつさぇ、怪我までさせて‼︎」私の声は怒りで震えまくってた。「信じらんない、有り得ない、サイテー‼︎ 私ほんとはあんたのこと結構好きだったけど、もー金輪際、友だちやめるッ‼︎」


「そ……そんな……」志奈子は青くなった。「あたしあんたしか友だちいないのに真園ッ‼︎」


「知るかよ」


「違うんだもん~」志奈子泣きそう。「こいつら三人が勝手に武田くん追っかけて~勝手にボコりやがって~勝手にあんたラチって~、それで勝手に縄でぐるぐるにしたんだもん〜」
 

 ホントかよ。私は疑いの眼差しをその場のみなさんに向けた。黒服ヤーさん三人組は頷きまくった。決まり悪そな顔。


「ね? ね? ね? 嘘じゃないでしょ」


「だったら早く縄ほどけよ」


「う、う~ん、したら友だちやめない??」


「いいからほどけボケ!」


 志奈子は私に歩み寄ると縄をほどき始めた。
「まったく」私はほどけた縄を忌々しげに一瞥して立ち上がる。

「あんたらバカ? お嬢がフラれたくらいで武田くん怪我させたそこの三人もバカっ!監督不行き届きな感じでお嬢もバカっ! 武田くん守れなかった私はもっとバカッッッ‼︎ 私だって……」
 

 私は志奈子の目をまっすぐ見つめる。


「私だって、武田くんにフラれたんだからねっ!」


「ま、真園……」志奈子の目が潤んだ。「真園ォォォォッッッ‼︎」


 志奈子が両手広げて私に抱きつく。


「ご、ごめんね、真園……」


 う~ん、なんだかよくわからんが友情な感じ……。

 そうよ、男がナニよ。ラヴがナニよ。これからはフレンドシップな時代よッッ‼︎
  涙々な抱擁を交わすうちらに、黒服さん方がおっしゃった。


「ところでお嬢方……。わしら、ボコったあのボウズ宛に、下の者に手紙届けさせて」


「てめーの女けェしてほしくば、たった独りでうちらのシマに乗り込んで来いって」
 私は真園を引き離し、自分の頭を押さえた。


「……な、なんでそんなメンドくさいコトを」


「へぇ。なんとなく成り行きで」


「成り行きで、んなことするなァァァッッ‼︎」


 お嬢が吠え、無下にヤーさんたちを蹴倒す。


「だ、だってお嬢。悔しいじゃねェすか」


「おしらのビンクダイヤモンド志奈子お嬢をフリやがって」


「ブッ殺す!!」


「『ブッ殺す』とか言うなァァァッッ‼︎」


 お嬢が百烈キックをかます。


 私は溜め息をついた。今……何時だろ。ケータイを見る。十六時五十三分。……結局デートはダメになっちゃったな……。


 私は廊下に続く襖へ歩みゆく。


「志奈子。もういいよ。私疲れたから帰るね。武田くんはさ……来ないよ。いくら彼が優しくても、私みたいな、なんの関係もない別のクラスのヤツのためになんかさ、」
 

 志奈子を少し願みてから襖へ向き直る━━


「ウワォォォォッ⁈」


 心臓飛び出しそうになった。いきなり外側から襖が乱暴に開かれた。


「はぁはぁはぁ……白川、ぶ、無事かっ⁈」


 ……………………た、たけだくん.....?
 信じられなくて、私は呆然とする……。
「た、武田くん、来てくれたんだァァァッ⁈」


 涙流して、私は武田くんに抱きつ……こうとするが、交わされる。走ってきたらしく息切れした武田くんは、イキナリ部屋の中のみなさんに向かって叫んだ。


「汚ねェぞテメーらッ‼︎ 俺になんかするならともかく、かんけェねぇ白川にこんなことしやがってッ‼︎ ━━山梨‼︎」

 武田くんは志奈子を指差した。「おまえ、最低だッッ‼︎」


 志奈子はこれ以上ないくらい目を見開いた。
「そ、そんな、ち、違っ……」


「白川。行くぞ」


 武田くんが私の手を掴んで、廊下へ駆けだす。きゃ、きゃーッ⁈  手ェ繋いじゃった繁いじゃったッッ‼︎


「ど、どうして……」


「あぁ、勝手口から意外とすんなり入れたぞ」


「そ、そうじゃなくて……」


 どうして、助けに来てくれたの……?


「待ちなさいよォッッ‼︎」廊下を足早に行く私らに背後から迫る声ッッ‼︎
「行かせないッ‼︎ た、武田くんはあたしのなんだからッ‼︎  いくら真園にだって、あげないんだからッッ‼︎」


「な、なに言ってんの、しーちゃん??」


 問答無用でしーちゃんは叫んだ。

「ヤレッ‼︎」


 途端にあちこちから現れいでる黒服さん方!!(ざっと二十人)


 ……や、やっぱりこーなんスかー⁈




 私たちは逃げた。大逃亡だ。……ではなくて。


 私はおもむろにケータイを取り出した。


「志奈子。そして、武田くん。いままで黙っててゴメンなさいッ‼︎ あのバカオヤジにだけは頼りたくなかったのッ‼︎  でももうこーなったら仕方ないわっ‼︎ うちのバカオヤジ、実は闇天組のアタマなのっ‼︎」


「や、闇天組……」志奈子が後じさる。


「その証拠に、ほら……」私はメモリ登録してあるオヤジの名と番をみなさんに掲げる。
「かけます」


 セブンコール。……つながった

。
「あ、パパ? 私、真園ー。うーん、元気元気。ママも元気だよー。いきなり電話してごめんねー。いま平気ー?」


 私は志奈子にケータイを渡す。志奈子は青さめた顔でうちのオヤジとなんか話す。念ため彼女は幹部っぽいヤツにもそれを回す。


「……まちがいありやせん、あのお声は……我ら小天使組の上の上の上を行く極道……闇天組の最強レッドエンジェル・白川茜(あかね)‼︎」


「そういえば聞いたことあるわ……」志奈子が息を飲む。「闇天組のボスには決して表には現れないナゾの娘がいるって……じゃ、じゃあ、ホワイトエンジェルってのは……」


「そう」私は電話を切った。「それが私よ」


 私は哀しい目をして再度ケータイを掲げる。

「つーことだから、オヤジの報復が恐かったら、バカなことはおやめなさい。今後一切、武田くんと私にヘンなことしないこと‼︎ そうしたら、今日のことは水に流すわ」


『は、ははぁぁーーーっっっ‼︎』


 みなさん揃って跪いて頭を下げた。




 ……私たち二人は歩いています。西の空だけ朱くなり始めた、駅に近い、街の道。私の後ろに武田くん。私は振り返れません。


「こめんなさい……。最初っからあぁしていればよかったんです。変な意地張ったりせず」


「なあ、白川」


「ごめんなさい、別にああいうみなさんに偏見持ってるわけじゃないんです。ただ私は……普通に静かに生きたかったんです。ただの白川真園、普通の女の子として生きたかったの、それになにより、あのオヤジには頼りたく……」


「白川」武田くんが、私の肩に手をかけた。「ありがとう。助けてくれて」


「……してですかッ⁈」私は彼を見た。「それは私のセリフですっ!」


 彼の瞳は……限りなく優しい。だから私は、惹き込まれる……。


 私は体ごと彼に向き直る。


「助けに来てくださって、ありがとうございました。待ち合わせ場所に来てくれて、ありがとう。早く助けてあげられなくて、ごめんなさい……それから……」


 桜。


「━━さくら。あの、桜の木の下で……」


 そばにいてくれてありがとう。


「白川さ……俺、口べただから上手くいえないけど……」

 彼はふいに私の頭を━━髪を撫でました。優しい手……。

「……ごめん」


「どうして、謝るんですか? ……謝らないでください」


 好きなの。そういうところが。あなたが。全部。


「私は━━白川真園は、あなたが━━武田仁史くんが大好きです」


「……りがとう」彼は笑う。

「今日、ダメになっちゃったからさ、また、来週にでもさ、どっか遊びに行こーや」
 それは、友だちとしてですね……?
 ん、でも、それでいいよ。
 そういってくれただけで私はもう充分……。


「ありがとうございます。でも……それは、無理かもしれません……」笑おう。あなたがいるから、私は笑える。「私、引っ越すんです。今週中に」


「え……?」


「うちの親が離婚したんです。まーいろいろあって。私は母親と暮らすことにしました。正直言って、私は父親が大嫌いです。あの人は、私の母を散々泣かしました。許せません」


 街はいい。人がいる。灯りがある。音がある。たった独り、部屋の中で膝を抱えているときとは大違いだ。風がある。流れがある。


「それで、しばらく、母はがんばっていたんだけど、やっぱりいろいろあって……母の実家に二人して移ることになりました」


「……どこに?」


「北海道。……遠いでしょう?」



 雪の街。雪は音を吸い込むの。静かな白い世界。私は忘れません、雪のようにあなたへの想いを閉じ込めて━━永遠に胸に抱いて。雪の降る日は、ほんの少し、私のことを思い出してくれませんか……? 白い雪に乗せて、私はあなたへの想いを歌うから……


「中学生には、遠い距離でしょう?」


 成田くんは言葉を探すように空を仰いで、私を見つめていいました。


「……メルアド教えて。メールする」


「ほッ、ホントですかーッッ⁈  あ、あのッ、よろしかったら、お電話もいたしませんかッ⁈ たとえケータイ代でおこづかい全部パーになろうと、私は本望ですわー!!勿論、武田くんがご迷惑でなければ。あ、あと、お手紙やおハガキなんかも私大ッ好きですッ‼︎」
 

 それから。たまには……たまには逢えたら……。


「そうだな。ま……気が向いたら」


 そっけない言葉。だけど私は知ってる。彼はほんとはとっても優しーの。


「おっしゃッ! なんか元気出てきたッ! あ、そうだ。しーちゃんのこと許してあげて? 武田くんに怪我させたことは許せませんが、まーあの子にもいろいろ事情があって」
 

 私は事の次第を武田くんにお話ししました。感謝しろよ、志奈子。……なんて、友情も大切です。


 私たちはしばらく黙ったままでいました。
 もっともっと、そばにいたいです……

 

 私は自室の姿見の前で迷ってます。髪はこれでいい? あ〜服、服やっぱり、もうちょっとかわいーのがいい? それともカッコイー系?
 えへへ。実は今日、久しぶりに武田くんとお逢いするんです♡♡♡
 散々迷って、デニムのジャケットとスカートにしてみました~。実はデニムも好きなんです。武田くんもデニム着てきたら運命かも。……コレは有り得ないとは言い切れませんね? 

 ああ、高校生になった武田くん。考えただけで鼻血出そーでス。ちなみに私は今道立高校生だったりして一♡
 厚いコートとマフラーで武装して、私は北海道の某駅へ向けて出発します。
 

 ……あ、誤解しないでください。別に私たちつきあってるわけじゃないんです。……でも、わざわざこうして先方からこちらに出向いてくださるってことは……もしかして、もしかしたら、見込みアリってコトっスかー⁈(罪な人です、武田くん♡♡)


 ……おお、メール。ケータイメールが来た! もしや武田くん♡ …….違った、志奈子だ。


『武田くんとデートだと⁈  死ねテメー』


 ……ホザいてろ。
 うふふー♡ しーちゃんと私は今でも仲良しさんですー♡
 私は電車が好き。人がたくさんいて、景色が動いて、そしてそして、あなたのところに運んでくれるから。


 ……本当いうと、昨日電話で父親とケンカした。アイツもう再婚するとか言い出すから。ムカついた。……私はいつの日か、あの人を好きになれるのだろうか……。無理なのかな……。


 窓を流れる景色。電車の席に座ったまま、私はふと眠くなる。眠って眠って、すべて忘却して、何もなかったことにしてしまいたくなる。何も考えず、ただ眠れたら……
 

 うお⁈  またケータイがブルった。どーせまた志奈子でしょ。


『ごめん、少し遅れそうだ』


 武田くんですッ‼︎  やーん、大丈夫大丈夫~、私待つわッ‼︎  あなたのコトなら、いつまでだって、待つ待つ、待ちますッ‼︎


 待ち合わせの駅の改札口に着く。私は少し歩いてみます。外には雪。たくさんの想いを降らせる、少し切ない白い雪━━……、 

 だけど。


 あなたに逢えたら。


 その瞬間、雪は花びらに変わるでしょう。


 私とあなたを包む、優しい優しい桜色……


「あ……」
 

 改札口に戻ってしばらくて、やってくる人影を見つけました。


 黒いコート。さりげに茶髪。コンタクトにしたのか、メガネはかけてません。


「久しぶり」


 彼の声……少し低くなってて……


「ど、どうした?」


 優しくて……


「幸せすぎて、死にそう」


 私がそういうと、彼はちょっと瞬きして、


「変わってねー!」


 おかしそうに笑いだします。


「な、なんで笑うんですかー!」


 私はちょっと、拗ねたふり。


「どこ行こうか?」


「うふふ、カラオケでしょ、ゲーセンでしょ、あとあと~……」


「俺あったかいもん食いてー」


「それなら、おいしいラーメン屋さんにご案内しますッ!」


 私は武田くんと一緒に歩きだします。


 本当は、どこだっていいんです。


 あなたと一緒なら、薄汚い路地裏でも、真っ暗な町でも、涙ばかりの夜だって……、
 

 桜色に変わるから。


「ところで白川。俺実は、また妙な組織に狙われてて……」


「マッマジッすかーッ⁈」


 現れいでるなぜか白服のみなさん方! 計五人! ハ、ハジキ持ってます! あの胸のマーク、まさか……猫神組⁈  うちのオヤジなんか適わないちょービッグ組織ッ‼︎


「に、逃げよう!」


 私は武田くんの手を取って、走り出す。


 あ〜んもう、ほっといてよッ‼︎ せっかくのデートなのにィィィィッッ‼︎


「ご、ごめん、白川」


「だ、大丈夫、大丈夫」


 あなたがいれば私は生きてけます。なんでもできます。だからこんなピンチ、切り抜けて見せます!


 ええええ絶対ですともッ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さくら・さくら うさぎさん⭐︎ @usagisantoka

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画