豚と暮らした男の、静かな地獄

 この物語、「豚の宇宙人が攻めてくる」という一見コミカルな設定なのに、読み進めるほど胸の奥をじわじわ締めつけてくるんです。

 正男は“英雄”でも“反逆者”でもなく、ただの普通の人。だからこそ、彼が豚社会と人類の間で板挟みになっていく過程が刺さるんですよね。逃げたいのに逃げられない。助けたいのに助けられない。善悪の線なんて、とっくに溶けて見えなくなっている世界で、それでも選ばなければならない。

 そして心の拠りどころが、かつて家族だった“豚のティール”という構図。また、この時点で既に、どちらが「人」でどちらが「獣」なのか境界が曖昧になる仕掛けが巧妙なんです。

 レビューなので詳しくは言えませんが――ある場面を境に、物語は優しさと残酷さの境界を越えて加速します。「もし自分だったら?」と倫理観ごと揺さぶられるタイプの作品です。SFでもあり、寓話でもあり、静かに感情を焼きつけてくる人間ドラマがお好きな人は、ぜひ読んでみてくださいね。

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