第7話 ネッ友が氷の女王でボクっ娘でクソ重かったんだが


「それで。何で、氷の女王とも言われている私がただ一回助けただけであなたにこんな風にしてるのか、だったわね」

「ああ。多分、俺以外にもいたと思うんだよ。葉月のことを助けたヤツなんて。それこそ、中学の時にでも」

「ふふ、正解。何人かいたわね。羽羅君、こっち向いてくれるかしら」


 言われるがままに目線をパフェから葉月の顔へと移す。その瞬間、パシャっと音が鳴って一瞬だけ俺の視界を白い光が包み込む。


 そして光が収まった後、すぐに俺は葉月を睨みつけた。完全にからかわれたか。


「睨まないでちょうだい。言ったでしょう? 教えてあげるって」

「これの何が繋がるんだよ」

「一切の説明を省くための手段よ。ほら、こうすれば説明なんていらないでしょ? 」


 完全に何も理解できないでいると、スマホに一通の通知が来る。ピスコだ。


 見ると、『るなクン』からのdmだった。どうやら写真が送られてきたようだ。その時俺は、全てを察した。……まさか、な。


「ああ、確かにこれなら余計な説明はいらないな」


 送られてきた写真に映っていたのは、ぽかんと間抜けな顔をしている俺の写真だった。つまり、そういうことだ。


 ──『るなクン』の正体は、目の前にいる御園葉月だった。うん、なんで?


「ちなみに中学の時から知っていたわ。なんでかは秘密だけれど」

「そんな前から知ってたのか。なら、尚更なんでだよ。そんな付き合ってるなら俺が欲に塗れた人間ということも知ってるだろ。もう何回セクハラしたよ」

「そうね。なら、素の私も見せてあげる。それで理解してくれるでしょ? 」

「素の葉月? 」


 こほん、と軽く咳払いをして、それから葉月の雰囲気はガラッと変わった。何が変わったのかはわかんないが、とにかく変わった。


「……ボクはね。君がいいと思ったんだ。今はもう慣れちゃったけどあれは、面倒事に巻き込まれないために人を遠ざけてただけ。人間信じた所でめんどくさい事になるのがオチだからね。なら、氷の女王だって演じて遠ざけた方がいいじゃない。でも君は違うと思った。君のことは沢山知り尽くしてる。君が本当に優しい人だってことも、君は裏表のない人だってことも。だから、ボクは君がいい。あはは、ごめんね。ボク、言葉にするの下手でさ」


 ……は。はぁぁぁぁぁぁ!? ボ、ボクっ娘だと!? な、なんだこのギャップ萌えの塊は!?


「わかってくれた? 」

「あ、あぁ。十分理解した」

「そう……あ」

「あ? 」


 それを確認して、すぐに葉月はまた氷の女王に戻ってしまった。でもまぁ、納得がいった。

『るなクン』は基本的に鯖のムードメーカーとでも言うんだろうか。本人曰く三十代とは言っていたけれども、とにかく底抜けに明るく隠しきれない幼さが見えていた。し、俺も面白いおっさんと思っていた。


 それがこの葉月ならキャラ崩壊もいいところだ、と思ったが。あれが素ならまぁ、それも納得だな。というか我ながら何故こんなにも理解が早いのだろうか。


「あ……ぁぁ。私、私何やって……! また、調子に乗っちゃった……馬鹿! 馬鹿馬鹿! 嫌われちゃう……! 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……あなたにだけは、あなたにだけは!!」


 それからすぐの事だった。しまった、というふうに葉月は目を大きく見開き、俺の腕に何も言わずにしがみついてきた。快晴だった空を、真っ暗な雲が埋めつくしている。不思議と、吸い込まれてしまいそうなくらいの綺麗な黒だった。


 ぽろぽろと涙を零しながら、葉月は離すまいと俺の腕を握る力を強めていって、消え入りそうな小さな声で俺に言った。


「ねぇ……幻滅した? あれが私の素、なのだけれど。ふふ、醜いわよね。おかしいでしょ? 気持ち悪いでしょ? 貴方は今の私を突き放す? 遠ざける? そう、そうよね。遠ざけるわよね。こんな……自分で素を見せるなんて言っておきながらその事に苦しんでる自業自得な馬鹿女、関わってても気持ち悪いだけよね。でも、お願い……捨てないで、私から離れないで。私、貴方に離れられたらもう──生きて、いけないから」


 そして重い重い重い重い!! こう言っちゃ失礼だがちゃんと無那の幼なじみだなぁこの子!! なんでこんな重いんだこの子も!! 無那と仲がいいってそういうことかよ!


「だ、大丈夫大丈夫! 俺は嫌いになったりなんてしないぞ! な、ほら! フリとはいえ俺は今彼氏なんだ! 離れたりなんてするわけないだろ! 確かに驚きはしたけど、全然素敵だと思うぞ!? それに……こんな美女から離れたら一生の後悔もんだからな!! 」


 慌てまくったせいで色々訳の分からないことをいってしまった。が、それが何とか響いてくれたみたいで。少しずつ、雲が晴れていく。陽の光が差していく。


「本当、に? いいの? あんな私でも? 離れないで、居てくれるの? 」

「もちろんだよ。っていうか今日から彼氏のフリ、始めるんだからさ。満足するまでいいよ、付き合ってやる」

「じゃあ、一生でも? 」

「一生は……」


 ♢♢♢


 パフェを食べ終えて会計を済ませ、店の外に出た。申し訳ないから、と全部葉月の奢りになった。結局葉月はまた元通りに戻った。良かった。


「ごめんなさい、本当に恥ずかしいところを見せてしまったわ」

「全然気にしなくていいって。でも意外だな、あんな一面があったとは。あとそんな前から繋がってたことも意外だったよ」

「……貴方はやっぱり優しいわね。今も、昔も」

「何か言ったか? 」

「独り言よ。気にしないでちょうだい」


 誰かと一緒に話しながら帰る。前までならありえなかったこと。とても、楽しくて一瞬で終わってしまう。いつもは退屈に帰る駅までの道のりだって、葉月がいたから一瞬だった。


「じゃあな、葉月。また明日。これから、よろしく」

「ええ、また明日。よろしくね、羽羅君」


 葉月が歩き出したのを確認して、俺は駅のホームへと進んでいった。


『18:30 るなクン 「ありがとう、だいすき」』

『18:32 メッセージは削除されました』


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