第6話
探索者協会・名古屋支部。
俺たち三人は、なぜか小会議室に呼ばれていた。
「……何かやらかしました?」
竜司が、小声で聞いてくる。
「規約違反はしていません」
蘭丸が即答する。
「むしろ遵守率は高いです」
「じゃあ何で?」
「褒められるやつ?」
「昇給イベント?」
そんな淡い期待を抱きながら、
扉の前で待っていると───
「どうぞ」
中から、事務的な声。
部屋に入ると、そこには探索者協会職員が二人いた。
一人は、いかにも有能そうな中年男性。もう一人は、タブレットを持った若い女性。
「雨宮祐介さん」
「高瀬竜司さん」
「鳴瀬蘭丸さん」
フルネーム呼び。
嫌な予感しかしない。
「本日は」
中年職員が言った。
「お三方の最近の活動について、少しお話を」
「はい」
「はい」
「規約的に問題ありません」
蘭丸が、先手を打つ。
「ええ」
職員は頷いた。
「問題は、ありません」
「……じゃあ何で呼ばれたんですか?」
俺が聞く。
職員は、タブレットを操作した。
「こちらをご覧ください」
表示されたのは、
俺たちのクエスト履歴。
成功率――100%
負傷率――0%
同行初心者の生還率――100%
「……優秀ですね」
竜司が小声で言う。
「自分で言うな」
俺が突っ込む。
「正直に言います」
職員は、少し声を落とした。
「皆さんは、目立ちません」
「ですよね!」
竜司が即反応する。
「派手な戦闘もない」
「SNS映えもしない」
「動画配信向きでもない」
全部刺さる。
「ですが」
職員は続ける。
「“事故が起きない”」
その言葉に、俺たちは少しだけ背筋を伸ばした。
「ダンジョン事故の大半は」
「無謀な突撃」
「連携不足」
「判断の遅れです」
「皆さんは」
「それを、ほぼ完璧に回避している」
蘭丸が、静かに頷く。
「規約を守っているだけです」
「ええ」
職員は苦笑した。
「それができない探索者が、多いんです」
若い女性職員が、口を挟む。
「協会内では」
「皆さんのチームを、こう呼んでいます」
「……なんて?」
竜司が聞く。
「安定型パーティ」
「強そうでも弱そうでもない」
俺が言う。
「でも」
女性職員は微笑んだ。
「一番、仕事を任せやすい」
その瞬間、俺の中で小さな警報が鳴った。
「任せやすい、って」
「どういう意味ですか?」
中年職員が、少しだけ間を置いた。
「……少し、面倒なクエストがあります」
来た。
⸻
提示されたのは、
《中層ダンジョン・調査任務》
討伐ではない。
攻略でもない。
「調査?」
「はい」
「魔物の増加傾向の確認」
「環境変化の把握」
「危険度は中」
「……地味ですね」
竜司が言う。
「派手さはありません」
職員は即答する。
「ですが、重要です」
「そして」
女性職員が続けた。
「正直、人気がありません」
「ですよね」
俺が言う。
「危ないし、儲からない」
「ええ」
職員は頷いた。
「若い探索者は、受けません」
部屋の空気が、重くなる。
「皆さんなら」
職員は言った。
「無理をしない」
「逃げる判断ができる」
「報告書を書ける」
蘭丸が、少し誇らしげに胸を張った。
「書類は、任せてください」
「おい」
竜司が囁く。
「そこ誇るところか?」
⸻
部屋を出たあと。
廊下で、三人並んで立ち尽くす。
「……どうする?」
俺が聞く。
「危険度、中」
竜司が腕を組む。
「死なないとは限らない」
「しかし」
蘭丸が言う。
「報酬は、悪くありません」
「でも」
俺は言った。
「派手じゃない」
「評価は、内部向け」
竜司が、ニヤッと笑った。
「俺たちらしいじゃん」
「そうだな」
俺も笑う。
「規約的にも」
蘭丸が頷く。
「受諾可能です」
こうして、
俺たちはそのクエストを受けた。
その判断が――
少しだけ、このチームの運命を変えることを、このときは、まだ知らなかった。
⸻
その夜。
俺は、スマホを眺めていた。
探索者掲示板の片隅。
《安定型って地味だけど、実は一番怖い》
そんな書き込みが、目に入る。
「……怖い、か」
俺は、少しだけ笑った。
派手じゃない。
最強でもない。
モテもしない。
でも――
俺たちは、今日も無事に帰ってきている。
それで、いい。
いや。
それが、いい。
30歳おじさん達のダンジョン探索 ねこ松 @toranana0630
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