第4話
探索者協会・名古屋支部。
クエストを無事終え、初報酬を受け取った俺たちは、
ロビーのベンチに並んで座っていた。
「……思ったより」
竜司が封筒を覗き込む。
「現金だな」
「現代日本ですから」
蘭丸が頷く。
「振込ではなく即金。合理的です」
「会社員の頃より、金を稼いだ実感あるな」
俺は、しみじみ言った。
三十路。
無職(元)。
童貞。
だが今は、探索者だ。
「次、どうする?」
竜司が聞く。
「連続受注は避けましょう」
蘭丸が即答する。
「疲労と集中力の管理が重要です」
「さすが行政官」
「体力よりメンタル重視」
そんな会話をしていた、その時だった。
「……あ」
竜司が、急に固まった。
「どうした?」
俺が聞くと、
彼は、ゆっくり視線を逸らさずに言った。
「……女の子」
「は?」
反射的に、俺と蘭丸もそちらを見る。
そこにいたのは――
若い女性探索者だった。
ショートカット。
動きやすそうな装備。
年齢は……20代前半、下手したら学生。
「……」
「……」
「……」
三人同時に、沈黙。
「……やばくないか」
竜司が小声で言う。
「何が」
「心拍数」
俺は、喉がカラカラになるのを感じた。
女性探索者は、受付で手続きを終えると、
こちらに向かって歩いてくる。
「……近づいてきてない?」
「気のせいです」
「いや、絶対こっちだ!」
そして――
「すみません」
声をかけられた。
「……は、はい!」
三人同時に返事をする。
「探索者、ですよね?」
彼女は、少し首をかしげて言った。
「はい!」
「そうです!」
「規約上、はい!」
「落ち着け」
彼女は、少し困ったように笑った。
「私、今日登録したばかりで……よかったら、一緒にクエスト受けませんか?」
――脳内警報、全開。
「一緒に!?」
竜司の声が裏返る。
「パーティ!?」
俺の声も上ずる。
「共同探索は可能です」
蘭丸だけが冷静だった。
「……あの」
彼女が、さらに言う。
「年上の方たちみたいなので……」
「年上!?」
「見抜かれてる!」
「おじさんオーラ!?」
「安心してください」
彼女は慌てて手を振る。
「悪い意味じゃなくて!」
俺たちは、必死に平静を装った。
「……自己紹介しますね」
彼女は言った。
「伊吹彩香です。21歳です」
「にじゅういち」
竜司が、かすれた声で復唱する。
「大学生?」
俺が聞くと、彼女は頷いた。
「はい。授業の合間に」
「軽いな」
「命がかかってるのに」
「……こちらこそ」
俺は咳払いをして言う。
「雨宮祐介です」
「高瀬竜司です」
「鳴瀬蘭丸です」
「全員三十路です」
竜司が余計な一言を足す。
伊吹は、にこっと笑った。
「よろしくお願いします!」
こうして、一緒にクエストをやることになった。
クエスト内容は、初心者向け・ダンジョン内巡回+魔物排除補助。
伊吹は、剣士タイプだった。
「……普通に前衛だ」
竜司が羨望の眼差しで見る。
「剣、ちゃんと振れてる」
「若さですね」
ダンジョンに入ると、
伊吹はてきぱきと動いた。
「スライム、右!」
「了解です!」
――一瞬。
スパッ。
スライムが、綺麗に真っ二つ。
「……」
「……」
「……」
「すごくない?」
竜司が小声で言う。
「火力がありますね」
蘭丸が分析する。
「若さって、すごいな」
俺は遠い目をした。
その直後。
「次、ゴブリン来ます!」
伊吹が言った。
「前に出ますね!」
「ちょ、待て!」
俺は反射的に叫ぶ。
「危ない!」
《敵意低下(小) 発動》
ゴブリンの動きが、鈍る。
「……?」
伊吹が一瞬戸惑った。
「今です!」
蘭丸が叫ぶ。
《規約支配:危険行為是正》
ゴブリンが、完全に混乱。
「今だ、竜司!」
俺が叫ぶ。
「任せろ!」
ぽん。
ゆるいマスコット召喚。
「……可愛い」
伊吹が呟いた。
「それ、攻撃力あります?」
「ない!」
だが、体当たりで転倒させる。
伊吹の剣が、止めを刺した。
「……連携、いいですね」
伊吹が、少し驚いたように言う。
「そ、そうですか?」
「普通です」
「規約通りです」
三人とも、内心ガッツポーズだった。
⸻
クエスト終了後。
「今日はありがとうございました!」
伊吹が頭を下げる。
「いえいえ!」
「こちらこそ!」
「規約上、問題ありません!」
「……また」
彼女は、少し恥ずかしそうに言った。
「ご一緒してもいいですか?」
「ぜひ!」
「もちろん!」
「予定を調整します!」
即答。
伊吹が去ったあと。
沈黙。
「……なあ」
竜司が言った。
「俺たち、今」
「めっちゃ挙動不審だったよな」
俺が言う。
「規約的に、不審者ギリギリです」
蘭丸が頷いた。
「でも」
竜司がニヤッと笑う。
「チームとしては、悪くなかった」
「だな」
俺は頷く。
三十路。
童貞。
ネタ職。
それでも。
「探索者として」
俺は言った。
「少しずつ、前に進いてる気がする」
蘭丸が、静かに言った。
「規約的にも、このチームは――健全です」
竜司が吹き出した。
こうして――
三十路童貞三人組の探索者生活は、別の意味で、騒がしくなり始めた。
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