妹の愛からしか摂取できない栄養素がある。いや比喩とかじゃなく。ガチで三つ子の妹からしか三大栄養素が摂れない。

アーブ・ナイガン(訳 能見杉太)

第1話 三つ子の義妹

「兄さん、どうですか、亜美あみの愛情たっぷり晩ご飯は」


 リビングにて。『牛すね肉とレンズ豆のトマト煮』を味わっていると、ニコニコ顔が覗き込んできた。隣から、俺の太ももに両手を置いて。自慢の妹、亜美であった。今晩も距離が近い。そして今晩もデレデレだった。あと良い匂い。


 二つ結びの黒髪を撫でながら、俺は答える。


「今日も最高だ。美味しいのはもちろんだが、亜美のご飯を食べると力が湧いてくるんだよな!」


 精神論的な話ではない。事実だ。野球部の練習で酷使され、回復と成長を求めている筋肉。そのために必要な栄養素を、俺は亜美の料理から摂取してきたのだから。


「うふふっ、兄さんにナデナデされると、亜美も妹パワーが湧いてきちゃいますっ! はい、兄さん、デザートのデレデレむぎゅーですっ。兄さん大好き、ちゅきちゅきちゅーっ」

「こらこら、もう高校生だろ? 亜美は甘えんぼさんだなー」


 俺の胸にモチモチほっぺを擦りつけてくる亜美。

 まぁ、甘えん坊なのは、俺も同じなんだが。

 忙しい両親に代わって家事をこなしてくれる亜美。そんな妹に俺は頼りっきりで、野球ばかりしている。罪悪感は半端ない。ただ、亜美は俺を甘やかすことが生きがいだと言ってくれている。俺に甘やかされることが至上のご褒美だと言ってくれる。


 これはもう、絶対に結果を出して、妹の献身に報いるしかない。俺は覚悟を決めている。

 覚悟を決めて、今日も亜美に精いっぱい甘えるのだ。監督やキャッチャーやマネージャーへの愚痴を吐き出しつつ、ほっぺスリスリし合うのだ。


「きっも」


 刺々しい声が、向かいの席から放たれる。が、亜美は余裕の笑みで返す。


「えー? どうしたんですか、穂実ほのみちゃん? キモいって……亜美の料理、お口に合わなかったですか……? 穂実ちゃんがこれ以上ムチムチにならないよう、少なめにはしておいたんですが」

「ムチムチじゃないし! 何でわたしのお皿だけ豆だらけなの!」


 同じ顔の妹にブチ切れる、金髪ミディアムボブのギャル。豆だらけのトマト煮をしっかり完食していた。


「きゃっ、怖いですっ」と俺に抱きついてくる亜美に舌打ちし、彼女はジトっとした目を俺に向け、


「てか離れろし。兄妹でそんなベッタリとかありえないから。あんたらのせいで、わたしまで変な目で見られてんだかんね? 誤解されたらどうしてくれんの」


 またグチグチと文句を垂れてくるのであった。自慢の妹、穂実であった。今晩も胸と太ももがムチムチしている。そして今晩もツンツンしていた。あと良い匂い。


「何だよ、誤解って。俺と亜美の兄妹仲が良いことで、穂実がどんな誤解受けるってんだ」


 マジで意味がわからなかった。ロジックが通ってない。こいつ、俺に反抗したいだけだろ。


「それは……」

 と少し言いよどんでから、穂実はキッと俺を睨みつけ、

「わたしまでブラコン扱いされちゃうじゃんってこと! わかれし、そんくらい! バカおにい!」


「いや、わかんねーよ、何だそれ。飛躍しすぎだろ……絶対ありえねーから安心しろ。周りからしたら、お前はどう見たって兄嫌いだろ」

「何それ……マジキモいし……」


 また何かいじけてしまった。プイッと立ち上がり、自分の部屋に行ってしまうのかと思いきや、白米のおかわりをよそって戻ってきた。何それ……マジ可愛いし……。絶対言わんけど。


「もう少し静かに食べられないものかしら」


 穂実の隣から、深いため息。黙々と箸を進めていた黒髪ロングの美少女は、こちらに目も向けず、


初太郎はつたろうも亜美も、家の中なのだから好きにくっついていればいいわ。ただし、私の生活を邪魔しないようにね。穂実も『お兄』のことが好きなら、素直に甘えればいいじゃない。いちいちこんなことで騒がないでくれないかしら」

「は――はぁ!? なに言ってんの、このバカ姉! わたしのどこがお兄ラブのブラコンだってゆーの! きもっ!」


 同じ顔の姉にブチ切れる金髪ギャル。オカズなしで白米二杯目を完食していた。

 一方の姉の方は、顔色も変えずに肩をすくめ、


「はいはい、ブラコンじゃないのね。別にどちらでもいいから、とにかく私の穏やかな日常を害さないでね。初太郎もよ? 無難にやっていれば甲子園でもプロでも行けるんだから、無用なトラブルを起こさないことね」

「ああ。悪いな、いつも」

「別に」


 何事でもないかのように、食事を再開するのであった。相変わらず、美しい所作であった。自慢の妹、胡桃くるみであった。今晩もサバサバしている。とにかく素っ気ない。が、それがちょうど良い。下の二人がいろいろと重たいので、ドライな距離感がありがたい。ちなみに、妹と違ってスタイルはスラっとしている。あと良い匂い。


 ――デレデレな亜美(三女)、ツンツンな穂実(次女)、サバサバな胡桃(長女)。俺の三つ子の妹は、兄に対する態度が全く異なるのであった。でもみんな良い匂い。


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